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「火群(ほむら)のごとく」は間違いなく青春時代小説の傑作だ。舞台は自然が豊かな小国、小舞藩。そこに3人の少年がいる。剣に生きる真摯でひたむきな若者林弥、十四歳ながら顔も身体もいかつく色里まで知っている源吾、彼とは正反対ですべてに控えめな和次郎、そこにもう一人、家老のめかけ腹の子で江戸から呼び寄せられた透馬という少年が加わる。歳も近い彼らの造形がなんといってもいい。
物語は林弥の兄の死が冒頭で描かれ、その後、透馬と3人の出会い、透馬の生い立ち、林弥と透馬の剣比べなどが描かれていく。身分も境遇も違う4人の若者、それぞれがそれぞれの青春を生きている。若者らしい彼らの会話、剣に対する熱い思い、胸に秘めた淡い恋や生きる苦悩をあさのあつこはその達者な筆で濃やかに描いていく。若者たちの心象風景を写したようなせつなく美しい自然描写も特筆ものだ。
これは少年たちの友情と成長の物語だ。しかし、透馬にとっても剣の先生であった林弥の兄の惨殺事件が物語に影を落とす。その真相を探ろうとして彼らが行き着いたその先には…。後半、やや駆け足になってしまうのが残念だが、終盤は本当に感動的だ。最後の別れの場面もいい。この物語、続編を読みたい。彼らが一体どんな青年になり、どんな剣の道を歩むのかをぜひ見届けたいから。
◎「火群のごとく」は2013年7月、文春文庫で文庫化されました。
2010.11.4 「火群のごとく」を読み終えたので、写真集をペラペラとめくりながら、次は何を読もうかと思案中。絲山秋子の「妻の超然」にしようかなぁ。積ん読本は相変わらず減る気配もない。
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