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【書評】佐藤泰志「海炭市叙景」-冒頭の物語が内包する不安がうっすらとこの小説の全編を被う

 昨年は復刊され話題になった本が多かったが、この「海炭市叙景」の映画化、それに伴う文庫化も出版界のトピックだった。それだけこの物語を愛し、大切に思っている人が多かったのだろう。僕もようやく手に取ったのだが、噂に違わず素晴らしい物語だった。

 

 函館がモデルといわれる海炭市を舞台にした18の物語。最初の9編はゆるやかにつながっており、短篇集というより、連作短篇、というより、「一つの街とそこに生きる人々をめぐる長編小説」と呼びたい。時は80年代の終わり、バブルのまっただ中の地方都市、描かれているのはけっして恵まれず地を這うように必死で生きる人々だ。冒頭の「まだ若い廃墟」は哀しい物語である。これを最初に持って来たことが佐藤のスゴさだと思う。読後に残った不安がうっすらとではあるが、この小説の全編を被うことになる。それは地方都市が抱える不安であり時代が内包する不安でもある。読み進めながらも僕らはこの最初の話を忘れることができない。

 

 印象的な話は本当に多い。学校をずる休みして切手を買いに行く少年の話(「一滴のあこがれ」)、孫が生まれる日にいつも通り路面電車を運転する男の話(「週末」)、職業安定所に勤める男を描き少々強烈な印象を残す「衛生的生活」などは特に心に残る。全編を通して街が描かれ、同時にそこで働く人々が描かれている。作者のこの街とそこに住む人々への共感は深い。「海炭市叙景」が世に出てすでに20年の歳月がたつ。しかし、この物語はまったく古びてはいない。それは私たちが今まさに時代の不安を抱えているからだろうか。作者の佐藤泰志は41歳で自死、未完のこの小説はその翌年発刊された。

   

2011.2.3 あ~ぁ、大相撲もなぁ。八百長あるとは思ってたけどあのメールの軽さがショック。なんだかなぁ。読書は「Q10シナリオBOOK」。

 

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