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【書評】絲山秋子「末裔」-命の連なりとその末端にいる自分を考えてしまう不思議な物語

 不思議な魅力にあふれた物語だ。絲山秋子の小説はそう感じるものが多いのだがこの「末裔」は特に魅力的だ。まずは冒頭、主人公である省三の自宅玄関の鍵穴が無くなってしまう。ここからもう絲山ワールドにグイグイと引き込まれていく。自分の家に入れなくなり呆然とするこの男、区役所に勤める公務員だが、妻を亡くし、自宅はいつの間にかゴミ屋敷と化している。一周忌が過ぎ、娘も家を出た。行く宛もない省三は街をうろつくうちに乙と名乗る見知らぬ男から声をかけられる。この乙との出会い、それに続くエピソードも普通におもしろいのだが、これからあとが傑作だ。

 

 彼は昔よく行った鎌倉の伯父の家を訪ねる。それまでは公務員然としていた男が、鎌倉に来てからは文学者を父に持つ風変わりな男へと変わっていく。空き家同然の伯父の家には「かって犬だった者」なんていうのが訪ねてきたり、疎遠だった娘と会ったり、不思議な夫婦との出会いがあったりと、何だかおもしろい。ここで彼は過ぎ去りし日々に思いを馳せる。伯父とのこと、父や叔父が持っていた教養について、死んだ妻や親族との関係。さらに、自分自身の人生、家族との在り方にも思いを巡らす。

 

 タイトルの「末裔」ともここでつながっていく。この物語が帯に書かれたような「家族小説」なのかどうかは僕にはよく分からない。ただこれを読むと、命の連なりとその末端にいる自分を考えざるを得ない。あまりに心細いそのひとつの魂を。

 

○絲山秋子「末裔」は2014年3月、新潮文庫で文庫化されました。

2011.4.25 スーちゃんの死は我々世代にとってそう簡単に受け入れられるものではない…。55歳なんてあまりに早すぎる。読書は佐藤泰志の「そこのみにて光輝く」を終え、同じく佐藤の「移動動物園」へ。

 

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