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【書評】佐藤泰志「そこのみにて光輝く」-グラデーションのように変化する感情、その濃淡を描くのが佐藤は巧い

このブログでも「海炭市叙景」を紹介した夭折の作家佐藤泰志、彼の作品が次々と文庫化されている。「そこのみにて光輝く」もそのひとつ。唯一の長編で三島賞候補にもなった傑作だ。

 

 冒頭、主人公の達夫はパチンコ屋で拓児という若者と知り合う。20代後半の達夫は町一番の造船会社を辞めたばかり。少し年下の拓児はテキ屋のまねごとをしている。出会いの後、達夫は拓児の家を訪ね、姉の千夏を紹介される。バラックに住む貧しい一家にひかれていく達夫。佐藤泰志は彼が拓児を受け入れていく様子や千夏を好きになっていく過程をきめこまかに描いている。黒か白かではなく、グラデーションのように変化する感情、その濃淡を描くのが佐藤は巧い。そのこまやかな描写こそこの小説の一番の魅力のような気がする。

 

 二部形式のこの物語、第一部は、鬱々としており、救いさえない。拓児たちとの出会いから数年後の二部は、物語に薄明かりがさしていてホッとする。ここで達夫は松本という隻眼の男と知り合う。彼は鉱山で水晶の採掘をやっている。そんな仕事に激しくひかれる拓児、達夫もまた「山はいいな」とつぶやく。日々の暮らしの中で、自分なりの自由だとか夢は失われてしまう。そこに射す一条の光。ここでも佐藤はその心の動きを丁寧に描写する。読んでいる僕ら自身も主人公の心に寄り添うように。達夫たちに本当に未来はあるのか?ラストの浜辺の場面が何ともいい。

  

○佐藤泰志、その他の本の書評等はこちら

 

2011.5.3 さて、連休。佐藤泰志の「移動動物園」がなかなか進まず、その間に「ブイヨンの日々」、コミックの「ふらり。」を読んじゃう。「移動動物園」、これはちょっときついなぁ。

 

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