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【書評】佐藤泰志「きみの鳥はうたえる」-今を感じる作家佐藤泰志の傑作2編!

 さらに佐藤泰志を読み進めている。「きみの鳥はうたえる」は表題作と「草の響き」の2作を収録。2つともとてもいい出来。芥川賞候補になった表題作は印象深い作品だが、後に読んだ分「草の響き」に心ひかれるものが多い。主人公は印刷所勤め。精神の不調が大きくなり、医師からランニングを勧められる。会話の少ない文章だが「移動動物園」で感じた「こまかすぎる描写」はこまやかで的確な描写に進化していて、会話が少なくてもスムーズに読める。文章のテンポもいい。絶望を感じるような初期の症状から、ランニングを通じて徐々に安定を取り戻していく主人公。友人の研二との会話、暴走族の若者たちとのつかの間の交流が心に残る。ラスト近く「振り出しに戻りたくなかった」という彼の独白。希望はあるのかないのか、少なくともその終わりは絶望ではない。

 

 「きみの鳥はうたえる」、こちらは会話も多い。書店員の主人公と共に住む友人の静雄、書店の同僚佐知子という3人の男女の物語。前半の主人公と佐知子が次第に親密になっていくところの描写など本当にうまい。会話もリアルでグッと引き込まれる。男2人と女1人、しかし、これは三角関係ではない。主人公はあっさりと佐知子を静雄に譲り渡す。「そのうち僕は佐知子をとおして新しく静雄を知るだろう」という一文が光る。どこかクールで恋にも醒めた感じの主人公。充実感のない日々を送る若者たち。今を生きる僕らには彼らに対する共感が確かにある。佐藤泰志はやはり今の作家なのだと僕は再度思った。

 

○佐藤泰志の他の本の感想などはこちら

  

             

2011.5.28 読書はさらに佐藤泰志「黄金の服」。うちの犬ひなたの歯が欠けて手術が必要に。大丈夫かなぁ、心配。5月に台風…。

 

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