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【書評】宮部みゆき「あやし」-人間の心の奥底にひそむもの、それこそが恐怖

 さて、久々に新刊以外の本を。文庫にもなっている宮部みゆき「あやし」だ。彼女の小説は大好きでほとんど読んでいる。写真を見ると、なんだか下町のおきゃんなねーちゃんって感じだが(ま、実際そうなのだが)、とにかくこの人の小説は構成力、文章力、発想、すべてにおいて群を抜いている。ミステリー、SF、時代小説と何でも手がけるが超能力者のことを書いても、捕り物控を書いても、宮部みゆきの小説の根底にあるのは「機微(きび)」という言葉だと僕は思う。人生の機微、男女の機微、人情の機微、人と人との関係の中で見え隠れする心の動きを鮮やかに描き出すことにかけて、この人の右に出るものはいない。

 

 この「あやし」も、奇談小説とかホラー短編集とか、惹句に惹かれて読むと、ちょっとはずしてしまうかもしれない。これもまた、ただ怖いだけの話ではないのだ。ま、恐いけれど、恐怖の質がちょっと違う。鬼とか物の怪とかそういう異形のものが確かに登場するが、宮部が見ているのはいつも「人間」なのだ。人間の心の奥底にひそむもの、それこそが恐怖であり、図り知ることのできない「不思議」なのだ。「布団部屋」「安達家の鬼」「時雨鬼」と傑作揃いだが、どれもが心にしっかりと残る。忘れられないのは「人の話」だからに違いない。

 

○宮部みゆきの他の本の感想などはこちら

   

 

2011.7.8 bk1の「今週のオススメ書評」に伊集院静の「いねむり先生」が選ばれました。今年の年間ベスト級と言っちゃってるのでうれしい。オススメ書評のページはコチラ(来週木曜日まで)。

 

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