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【書評】宮部みゆき「チヨ子」-着ぐるみの中から彼女が見たのは?表題作が特にいい

 宮部みゆきの小説は長編はもちろんだが、短篇でも「なんだ、つまらん」と思うような駄作がない。現代作家の中でも一番の「安心印」作家ではないか。超常現象的な事をテーマにした短篇・中編5作を集めたこの作品集、文庫の裏には「いきなり文庫化した贅沢な一冊」とあるが、単行本化からこぼれ落ちちゃった今イチ作品を集めたのでは?、という心配がなかったわけではない。しかし、これは杞憂。どれも確実におもしろかった。

 

 特に好きなのは表題作「チヨ子」だ。アルバイト先のスーパーでピンク色のウサギの着ぐるみを着なければならなくなった「わたし」。イヤイヤ着てみると…アレレレレ!見える世界が何だかヘン。慌てて頭を脱ぎ捨てると…元の世界です。彼女はいったい何を見たのか。その後に起こる中学生の万引き事件を通して「わたし」が知った真実とは?いやいやいや、うまいなぁ、宮部みゆき!こういう話を短篇としてサラッと書けるのが彼女のスゴいところだ。

 

 ラストの「聖痕」はかなりのボリュームで、しかも、問題作。ここまで踏み込んで書くのかと驚いた。初出も2010年7月と新しく、解説の大森望さんによる著者インタビューで宮部さんは、この小説を書いた事で「やっぱりSFもやりたいという気持ちがまた出てきました」とコメントしている。おぉぉぉぉ。というわけで、宮部SFのファンにも必読の一冊と言えそうだ。

 

               

2011.8.16 今週末でこの暑さ、終わってね。当たらない天気予報、当たってね。こうの史代「この世界の片隅に」を読み出した。そのあとは豊崎由美「ニッポンの書評」になる、かな。

 

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