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【書評】佐藤多佳子「聖夜」-音楽や仲間との交流を通し成長していく主人公

 久しぶりの佐藤多佳子。School and Musicシリーズと銘打たれた2冊のうちの1冊。もうひとつの「第二音楽室」はすでに読んで書評もあげているのだが、なぜかこちらだけ遅くなってしまった。読み始めて改めて思ったのは佐藤多佳子の文章のうまさだ。普通の文章が普通にうまい。さすが、である。「第二音楽室」は短篇集だったが、こちらは長編。さて、どんな物語が僕らを待っているのか?

 

 主人公はキリスト教系の高校に通う鳴海という男の子。彼には母が父の元から去ったことへのトラウマがあり、学校生活や部活、周りの人々に対してどこか斜に構えている。さめた感じがする若者なのだ。オルガン部に入っている鳴海は、他の部員よりもはるかに優れた技を持っているのだが、メシアンの難曲を弾くことになっていた文化祭の直前にとんでもない行動に出てしまう。

 

 これは鳴海が音楽やオルガン部の仲間たちとの交流を通して、苦しみながらも成長していく姿を描いた物語だ。教会の牧師である父との会話、後輩からの恋の告白、ロック好きの友人との交流が、彼の心を少しずつ変えていく。鳴海や部活仲間たちの演奏場面の描写が素晴らしい。奏者の思いとその音が一緒になって読む者の心に響く。クライマックスのパイプオルガンの演奏、そして、クリスマスツリーを見上げての会話と合唱が感動的。「第二音楽室」と共に読んで欲しい音楽小説の傑作だ。

 

 ○「聖夜」は2013年12月4日、文春文庫で文庫化されました。

○佐藤多佳子、「第二音楽室」を含むその他の書評はこちら

 

2012.2.9 今日は母の87歳の誕生日。ささやかなお祝いを。読書は、「のぼうの城」読了。朝井リョウ「もういちど生まれる」を読み始める。

 

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