英国教会の神学者であり、哲学者でもあったイギリスの詩人ヘンリー・スコット・ホランドの詩の本だ。詩集ではない。収められているのはタイトルの「さよならのあとで」という詩一編だけだ。ここで言う「さよなら」とは死別のこと。この詩は最愛の人、かけがえのない友人、大切な家族などを失った人々のために書かれたものである。原詩も最後に記されているのだが”Death is nothing at all”に始まり、"All is well"で終わる英文で24行の詩は、身近な人との死別を経験した多くの人々に安らぎを与えることだろう。
僕は10年以上前に父を亡くした。2人の関係はけっして親密ではなくクールな仲だったのだけど、なぜか喪失感が大きく自分でも驚いたものだ。今年の2月には長年の友を失った。友と言っても20年近く会ってはいない。時々、メールの交換はあったのだけれど。とはいえ、彼は僕にとっては「かけがえのない友人」と言うほかない存在だった。30年以上も前に短い期間、同じデザインオフィスで働いただけなのだが。そういう友人っていませんか?
話はちょっとズレてしまったが、喪失感というものは思いがけなく深く、人の心を苦しめ続ける。この詩は立ち直ることがなかなかできないでいる人たちの心をやわらかく解きほぐしてくれる。何度も何度も読む。時には気に入った一行を口の端にのぼらせてみる。最初から音読してみる。良い詩は声に出して読むこと自体、心地よいものなのだ。
出したのは吉祥寺の個人出版社「夏葉社」。彼自身が3年前、一番の親友であった従兄を事故で亡くしたという島田潤一郎氏の渾身の仕事だ。
2012.4.7 花冷えとはまさに今日のような天気を言うのだろう。昼間の井の頭公園は賑わっていたが…夜は凍えそう。読書は「犬から見た世界」を読み始めたが挫折、三浦しをん「舟を編む」を読み始める。
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