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【書評】小川洋子「ことり」-作者らしさに溢れる静謐で美しい物語

 小川洋子ワールドは常に静謐で少しヴェールに被われ、なんだか不思議だ。この「ことり」も確かにそうだが、「小鳥の小父さん」と呼ばれる主人公は、これまでの数学博士やチェスのプレイヤー以上に普通の人だ。小父さんのお兄さんは「ポーポー語」という不思議な言葉をしゃべり、それを理解できるのは小父さんと小鳥たちだけだった。兄と弟、世間の片隅でひっそりと生きている2人の心の交流がとてもいい。夜、静かにラジオを聴いたり、幼稚園の鳥小屋で小鳥たちの声に耳を澄ませたり。時には「準備だけで終わる旅」を楽しんだり。社会との交わりも少ない2人だが、そこには確かに心の揺れや喜びが感じられるのだ。作者は常に真摯なこの兄弟と向かい合い、彼らの心の底から湧き出る思いを紡ぎ出している。

 

 お兄さんが亡くなった後、一人になった小父さんには淡い恋や不思議な出会いがあり、最後には傷ついたメジロとの遭遇がある。普通に生きる人々の普通の人生のなかに垣間見える奥深さ。そこに自分と共鳴するものを感じる読者もいるはずだ。これは小川洋子らしさに溢れる静かで美しく魅力的な物語である。

 

◯小川洋子の他の本のレビューはこちら 

  

◎「ことり」は2016年1月7日、朝日文庫で文庫化されました。

2013.3.4 なんだかまた寒くなっちゃいましたね。Jリーグが始まりWBCも始まって春の気分なのになぁ。読書は佐藤正午「カップルズ」。

 

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