「アニバーサリー」の主人公は娘と祖母ぐらいに年齢差がある2人だ。75歳で未だ現役のマタニティスイミングの指導者である晶子、その元生徒で30歳を過ぎたカメラマンの真菜。彼女の母親は著名な料理研究家だ。物語は3.11の2人の再会に始まり、駆け足ながらも晶子の75年の人生と真菜のこれまでを描いていく。戦争の悲惨さと戦後の自由な空気を体験し、結婚後は仕事一辺倒の夫を支え、40近くになってから仕事と家庭を両立させていった晶子。一方、真菜は、幼い頃から母との関係がうまくいかず、高校生の時には悪い友達とつるむようになる。写真だけが希望だったが望まぬ子を宿し、たった一人で途方に暮れている。
そんな2人の人生が大震災の日に交差する。地震や原発に恐怖し、出産後は子育てに怯えている真菜。彼女を何とか自分やその友との関わりの中でつなぎとめようとする晶子。この2人の間の世代には家庭を犠牲にしながらも自分の力で仕事を切り拓いて来た真菜の母がいる。「アニバーサリー」は、3世代の女性たちを通して描かれた女性史、とも言えるのではないか。3.11後を生きる真菜は、否定も肯定も含めて晶子や母の世代から受け継ぎ預けられたものを娘の絵莉奈へとリレーのように渡そうとしている。そこに作者の思いがある。
この小説のラストで窪美澄はこれまでの作品のようにささやかな希望を提示していない。しかし、僕らは、特に女性たちは感じるのではないか。この終わっていく世界をとにかく生きていこうと。先の世代の人々が生きて来たように、一日一日、自分なりに生きていこうと。「アニバーサリー」は常に「家族」と「女性」を意識して描いて来た窪美澄のひとつの到達点だと思う。必読!!!
◯窪美澄の他の本のレビューはこちら
◎「アニバーサリー」は2015年7月、新潮文庫で文庫化されました。
2013.4.2 新年度になりましたね。ちょっとだけ期するところあり。読書は沢木耕太郎の「キャパの十字架」。クドカンの朝ドラが楽しみ!!
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