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【書評】いとうせいこう「想像ラジオ」-ここには3.11を巡るすべての思いがある

 「こんばんは。あるいはおはよう。もしくはこんにちは。想像ラジオです。」という第一声から心を奪われる。リスナーの想像力の中でだけオンエアされるこの放送は、町を見下ろす小山に生えている杉の木の上、そのてっぺん辺りに引っかかってるというDJアークが届ける軽やかな放送だ。楽しい?おしゃべりと素敵なミュージック!最初の一曲は、ザ・モンキーズの「デイドリーム・ビリーバー」!「想ー像ーラジオー」というジングルが鳴り響き、想像ネームを持ったリスナーたちからメールが届き、電話がつながる。

 

 いやいやいや、こういう「世界」を創り出したいとうせいこうはスゴいや。で、このDJアークこと芥川冬助(38)は、どうやらあの大震災と大津波の犠牲者らしいのだ。ううむ。全5章のこの物語、1、3、5章がアークの語り、2、4章がアークがDJのない昼の時間に書き進めている小説もどき、という構成だ。

 

 「想像ラジオ」という小説にはあの地震、あの大災害に対する様々な思いが様々なカタチで語られている。この世にもあの世にもいないリスナーたちの嘆きや悲しみ、アークが爆発させる神への怒り、ボランティアたちの自らに対するいらだち、何もない平凡な一日を懐かしがる女性のつぶやきなどなど。いろんな思いが、この小説を埋め尽くしている!そしてこの小説の大もとには、作者自身の逡巡と無力感がある。「あの惨事を小説にしていいのか」「こういう形で表現していいのか」「被災者ではない僕らは何をしても偽善ではないのか」、いとうせいこうは迷い、惑い、苦しみながらこの物語を書き続けた、そんな気がする。

 

 アークはつぶやく。「テレビラジオ新聞インターネットが生きている人たちにあるなら、我々には悲しみがあるじゃないか」「悲しみが電波」なのだと。そして、「ひょっとしたら生きて悲しんでいる人にもこの番組は届く」「届くと思いたい」と。ラストソングは…いや、これはもう読んだ人だけの喜び。さぁ、では、皆さん、声を揃えて!

「想ー像ーラジオー!!!!!」           

 

◎「想像ラジオ」は2015年2月、河出文庫で文庫化されました。

2013.4.23 「想像ラジオ」、これは今年のベストかもしれない。4月なのにこんなに寒くていいのか、って日々が続きましたが、これから暖かくなるのかな。読書はまだまだ椎名誠「三匹のかいしゅう」。

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