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【書評】小川洋子「いつも彼らはどこかに」-動物たちの物語?いや、これはまぎれもなく人間の物語だ

 事前に読んだ内容紹介で動物たちの物語、と書かれていたので、そのつもりで読み始めたら全然違っていた。というか、この8編の物語、確かにタイトルは動物絡みだし、馬やビーバーや兎など動物たちが登場する。しかし、これはまぎれもなく人間の物語なのだ。

 

 小川洋子の小説はいつもカッコの中で語られているような気がしている。しかし、最初の1編「帯同馬」はかなりリアルな話で驚いた。主人公は、スーパーのデモンストレーションガール。彼女は、電車に乗り放っておいたらどこまでも自分の知らない果ての地まで連れて行かれるかもしれないという恐怖に怯えていた。そのために彼女はモノレールにしか乗れず、その沿線に住み、沿線の店だけでデモンストレーションの仕事を続けているのだ。そんな彼女が新聞で見つけたのが、凱旋門賞に出る競走馬ディープインパクトの帯同馬の記事だ。ピカレスクコートというその馬はディープインパクトが慣れない土地でストレスを感じないよう一緒に渡仏するというのだ。帯同馬、という存在に強くシンパシーを感じる彼女。折も折、彼女は店のお客さんと旅に出ることになるのだが。

 

 ラストの1編「竜の子幼稚園」はうって変わってカッコの中でしか語れないであろう小川洋子らしい不思議な話でこれがとてもいい。全編に共通しているのは人間にとっての動物たちの存在の意義、「いつも彼らはどこかに」いて、人の力になっている。心に残る話が多い好短編集だ。

 

◯小川洋子のその他の本のレビューと情報はこちら

  

◎「いつも彼らはどこかに」は2015年12月、新潮文庫から文庫になりました。

2013.8.5 また猛暑復活?恐い…。え〜っと読書は絲山秋子「忘れられたワルツ」。久々の絲山本だけど、やっぱりこの人、いいなぁ。

 

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