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【書評】松家仁之「沈むフランシス」-それは大自然の中、儚く燃える淡い炎のような恋

 フランシスって何だ? まずは誰もがそう思うだろう。小説は川に流されてきた死体の描写から始まる。どうみても人間のようだが、これがフランシス? 表紙の犬の写真も気になる。フランシスとは何か、それはこれから読む人のために秘密にしておこう。

 

 物語の舞台は北海道東部の安地内(アンチナイ)という村。東京の大手商社を退職して非正規の郵便配達員になった女性が主人公だ。デビュー作「火山のふもとで」で美しく静謐な物語世界を創りだした松家仁之は、ここでも北国の四季を丁寧に描いて素晴らしい。ただ、登場人物も多く、展開もダイナミックだった前作に比べると、この物語は男女2人の恋愛小説で登場人物も限られている。

 

 郵便配達員の桂子とその配達先で川の畔の木造家屋に一人で暮らす和彦の2人は、会ってまもなく深い関係になる。何度か逢瀬を重ねていくうちに桂子は「自分の中にある無数の細胞が活発に動いていると感じながら(中略)どこにも届かない曖昧な空間に宙づりされているような感覚を覚え」始めるのだ。すべてが曖昧なままに続く男女の関係。それは、北海道の大自然の中でチロチロと燃える儚い炎のようだ。

 

 男と女はただ心と心でつながっているのではない。周りの自然や出来事が彼らの思いに強く影響を与える。フランシスの存在もまた…。美しく未来につながるラストが強く印象に残った。松家仁之は、これからも読み続けたい作家である。

 

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 2013.12.16 心にひっかかっていたこともようやく終わり、なんとかラストスパートへ。読書は伊集院静「ノボさん」。なかなか進まない。

 

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