素晴らしい!「HHhH」で一番スゴいのはスタイルだ。こういうスタイルで小説が書けるとは!この物語、副題の通り、舞台は1942年、ナチ占領下のチェコ・プラハ。ユダヤ人大量虐殺の首謀者で「金髪の野獣」と恐れられたラインハルト・ハイドリヒの暗殺事件を描いている。
最初、読む者は混乱するだろう。登場する「僕」って誰?これはどういう物語?しだいに分かってくるのは、この「僕」が作者ローラン・ビネ自身であること。彼はこの暗殺事件について、あらゆる文献を読み、関連の小説や映画などにもしっかりと目を通している。そして、彼は思うのだ。いろいろなことは分かった。しかし、分からないこともたくさんあるのだ、と。
小説の中でビネは「この場面も、その前の場面も、いかにもそれらしいが、まったくのフィクションだ。ずっと前に死んでしまって、もう自己弁護できない人を操り人形のように動かすことほど破廉恥なことがあるだろうか!」と言い放つ。物語を書きながらも作者は、自問自答を続けるのだ。「フィクションなら何をしてもかまわない」のか、と。裏返せばこれは、暗殺を実行した2人の青年、そして、彼らを助けたチェコの人々への敬意と弔意に違いない。いいかげんなことは書けない、とビネは思っている。
このスタイルは、暗殺のその場面でピークに達する。作者と暗殺者たち、過去と現在が渾然一体となったようなこれまでにない表現!感じたことがないような興奮!ローラン・ビネ、恐るべし!こういう新しいスタイルで語られながらも、この小説は戦争の恐ろしさ、人間の狂気をしっかりと伝えている。反戦への思いも強く感じる。ラストのいかにも小説らしい終わり方もまたこの作者らしい。これはもう、小説好きにとっては必読の1冊だと僕は思う。
◯この小説は2023年4月、創元文庫から文庫化になりました。
2014.6.18 Mac、ついにハードディスクを交換。トラブルが続いたがこれで直ってくれれば。サッカー日本代表も、しっかり治して?がんばってね。読書は逢坂剛「百舌の叫ぶ夜」。
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