今年の本屋大賞受賞作。作者の志の高さを強く感じる物語だ。「鹿の王」は単なるファンタジーではなく、医療ミステリーであり、冒険小説であり、人間小説でもある。
舞台は大帝国・東乎瑠(ツオル)に征服されたアカファ領。そこには元々の住民、東乎瑠からの移住民、さらには「火馬の民」などの辺境の民がいる。それぞれの思惑が絡み合い、それはまるでこの世界の紛争地の縮図のようにも思える。そして、主人公の2人。1人は「欠け角のヴァン」。妻と子を亡くし、絶望から死に場所を求めていた戦士団「独角」の頭。もう1人は高度なオタワル医療を受け継ぐ医術師ホッサル。犬の群れの襲撃から起こった病でなぜか生き残ったヴァンがもう1人の生き残り幼子ユナと逃亡の旅に出る。ここから物語が動き出す。彼らを待っているのは…黒狼熱、犬の王、沼地の民…。そして、2人を追うサエという後追い狩人の娘の存在。
犬に噛まれたことでその身体に異変をきたしたヴァン、病の治療法をなんとか見つけ出そうとするホッサル。2人の存在とその在りようはこの物語の中でも際立っている。ウイルスの話が人間世界とシンクロし、さらに深遠な物語世界を造り出す。圧巻なのは下巻の半ば辺りから。病のこと、命のことを主人公たちが語る長い場面、そして、驚きの謎解きとヴァンの決断!
絶望の縁にいて、もう生きていたくないと思っていた男が最後にとったこの行動は、読むものの心を強く打つ。それはまさに、作者が放つ生命に対する力強いメッセージだ。「生命」そのものを描いて、これは忘れることができない物語になった。
◯この本は2017年6~7月、角川文庫全4冊で文庫化されました。
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2015.4.17 ううむ、やっと春らしい春になって来たのかな。いろいろとやることがあるような、ないような。読書は絲山秋子「離陸」。
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