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【書評】東山彰良「流」-フツーにおもしろい小説だ。それ以上でも以下でもない。

 これはフツーにおもしろい小説である。「二十年に一度の傑作(北方謙三)」でも何でもないし「十五年間で一番幸せな選考会でした(林真理子)」なんて言われても困っちゃう。いくら直木賞受賞の審査コメントだからってここまで言うとは…。皆さんどうかしちゃったんじゃないかしらん。

 

 舞台は台湾の台北市、1975年の蒋介石の死から物語は始まる。まさに国中を揺るがしたその死の後に、主人公である葉秋生の祖父が何者かによって殺される。第一発見者は17歳の秋生だった。祖父の葉尊麟は、中国本土での内戦に敗れて台湾へと逃れてきた国民党の生き残りで、どうやら本土では悪行の限りを尽くしてきたらしい。そんな祖父の死を心のどこかに引きずりながら秋生はその青春を生きている。

 

 この物語がいいのは、喧嘩を通して育っていく友情の物語や幼なじみの看護師・毛毛との恋の物語、父や祖父、親戚のおじさん、じいちゃんたちとの交流の物語、そして祖父の死のミステリーが当時の台北そのままに混沌と描かれているところだと思う。この混沌さこそが「流」という物語の大きな魅力だ。そして、それを支えているのは作者の感情表現の巧みさ、ユニークさだろう。「流」は最終的には祖父殺しの犯人探しになり、舞台も中国本土へと移っていく。その大団円の見事なこと!うん。これはフツーにおもしろい小説だ。それ以上でも以下でもない。過大評価は逆に作者を貶めることにならないのか。 

 

◯この本は2017年7月、講談社文庫で文庫化されました。

2016.1.18 雪、積もっています。今は雨だけど。雨バンバン降って雪が溶けないかなぁ。雪かきイヤだぁ。読書は中島京子「長いお別れ」。

 

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