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【書評】中島京子「長いお別れ」-これは夫婦の絆、そして家族の絆の物語だ

 読む前は認知症の父親とその家族の話という知識しかなかった。「小さいおうち」で直木賞をとった中島京子の小説なので期待感はもちろんあったが、このタイトルで認知症となるとやはり重い話なのかな、と思っていた。しかし、この思い込みはいい意味で裏切られることになる。「長いお別れ」は不思議な軽みとそこはかとないユーモアが漂う小説だった。これは作家自身の資質なのだろうか。いずれにしても、このライト感覚がとてもいい。

 

 主人公の昇平には妻の曜子と3人の娘がいる。昇平は中学の校長などを勤めた男だが、約束の場所にたどり着けなかったことから家族が心配し、受診の結果、初期のアルツハイマー型認知症という診断を受ける。この物語は発症して10年間の出来事が描かれているのだが、中島京子は家族の介護生活を描くだけではなく、長女の息子の失恋話、妻曜子の目の病の話などのエピソードも描いていて、それがゆるやかに昇平の話へとつながっていく。この構成が見事だ。

 

 最終章。夫に対する曜子の言葉が強く心を打つ。「(昇平は)妻、という言葉も、家族、という言葉も忘れてしまった」「それでも夫は妻がいないと不安そうに探す。不愉快なことがあれば、目で訴えてくる。何が変わってしまったというのだろう」。これは認知症の物語であると同時に、夫婦の絆、そして、家族の絆の物語である。忘れてしまう病によって、すべてが失われてしまうのか?

 

 何があっても動じないたくましささえ感じられる妻曜子のキャラクターがいい。娘たちの個性もキチンと描かれている。タイトル、認知症のことを英語で「ロング・グッドバイ」とも言うらしい。少しずつ記憶を失くしてゆっくりと遠ざかっていくから。そうか…なるほどなぁ。

 

◯この本は2018年3月、文春文庫で文庫化されました。

2016.2.1 2月だ、2月だ、寒い寒い。暖冬、どっかにいっちゃったなぁ。サッカーU23、見事でした。読書は角田光代「坂の途中の家」。

 

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