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【書評】村田沙耶香「消滅世界」-日本の未来を暗示する?村田沙耶香、入魂の一冊

 そこは、人が人工授精を受けて出産し、もう交尾(セックス)によって子供を産むこともなくなってしまった世界。未来というよりパラレルワールドだ。この世界の住人が恋をする相手は、アニメや漫画や本の中のキャラクターがほとんどで、少数だがヒトの異性に恋する人間もいる。夫婦にとっては「家族」であることと子育てだけが大事で、夫婦間のセックスは「近親相姦」とみなされタブー視されている。夫婦が恋をすることはなく、結婚しても外に恋人がいたりするのだ。

 

 そんな世界で生きる主人公の雨音には大きなヒミツがあった。彼女は、父と母の性行為で生まれた子供なのだ。それは大きなコンプレックスになっており、同時に、自分の中に母と同じ血が流れていることを彼女は恐れている。

 

 大人になった雨音は結婚をし恋人もできるのだが、あることがきっかけで夫と共に実験都市・千葉へと移住することになる。そこでは、生まれた子は名前ではなく「子供ちゃん」と呼ばれ、すべての大人がすべての子供の「おかあさん」になる。男も人工子宮で妊娠する。雨音は、その異様な世界に最初は嫌悪感を抱いていたのだが…。

 

 この小説の設定のスゴさ!セックスレスだと言われる現在の日本と地続きの場所にあるようでやたらと怖い。これからこの国はどうなっていくのか?男と女の関係、夫婦の関係、親と子の関係はどうなるのか?家族とその未来は?いろいろなことを考えずにはいられない村田沙耶香、まさに入魂の一冊!

 

◯この本は2018年7月、河出文庫で文庫化されました。

 ◯村田沙耶香のその他の本のレビューはこちら

  

2016.3.7 義母の葬儀も終わり、ようやく日常が戻ってきた。妻はまだいろいろ大変だが。読書はピエール・ルメートル「その女アレックス」。

 

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