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【書評】宮下奈都「羊と鋼の森」-ピアノも弾けない平凡な青年が悩みながらも調律師として成長していく姿が感動的

  本屋大賞受賞作。豊かでなだらかな丘がずっと続く、そんなイメージの物語だ。自分の無知を恥じるのだが、ピアノの調律や調律師に対して大きな誤解があった。それはいわゆる「チューニング」なのだと思っていた。その作業がかなり面倒なので調律師というプロがいるのだと。しかし、違った。この物語を読めばそうではないことがよく分かる。弾く人の経験や技量によって音を変えることも必要だし、弾く場所でもそれは変わってくる。もっと言うならば、調律師がピアニストを育てる、ということもあるのだ。ううむ。

 

 主人公の外村は自然豊かな北海道で育った。素直でヘンなこだわりのない普通の人間。そんな彼が高校時代に出会った板鳥という人の仕事を眼前で見て調律師になろうと決心する。そこから物語が始まる。

 

 調律師の学校を出た外村は板鳥のいる店に就職する。個性豊かで調律にも一家言ある秋野、柳などの先輩たち。それに対して外村はピアノも弾けず、迷ってばかりで技術的にも精神的にも進歩が遅い。そんな一人の青年が悩みながらも一歩一歩前進していく姿を描いたのがこの「羊と鋼の森」という物語だ。

 

 大きな出会いがある。和音(かずね)と由仁(ゆに)という双子の姉妹。2人のピアノを聴いたことで外村の調律師としての人生は本当の意味でスタートし、さらに彼女たちに起こったある出来事をきっかけに成長していく。特別な存在ではない外村のような男が一生の仕事として調律師を選び、その価値を見い出す。その姿に共感する人も多いだろう。

 

 先輩たちの造形、そして、ピアノの音の表現や抑制のきいた全体のトーンが素晴らしく、この物語を支えている。宮下奈都の物語をもっともっと読みたくなった。

 

○この本は2018年2月、文春文庫で文庫化されました。

  2016.5.11 かなりの強風。最近の東京、なんだか風が強い日が多い。読書は吉田修一「橋を渡る」があと少しで終わる。

 

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