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【書評】原田マハ「暗幕のゲルニカ」-アートの力とそれを信じる人々の力を描いた傑作!

 名画「ゲルニカ」を巡る2つの物語。1つはピカソが「ゲルニカ」を生み出す物語。そして、もう1つは9.11で夫を亡くしたMoMA(ニューヨーク近代美術館)のキュレーター八神瑤子が「ピカソの戦争」展を開催しようとする物語。「暗幕のゲルニカ」では過去と現代、この2つの物語が交互に語られていく。

 

 どちらにも背景には戦争がある。ピカソが生きたのは大戦前夜のパリ。「ゲルニカ」を描くきっかけとなったバスクの都市ゲルニカへの空爆、ファシズムの台頭、そして、長い戦争が始まり、パリも陥落する。瑤子が暮らす9.11後のアメリカでは「報復」という名の下、イラクへの武力行使が始まる。

 

 ピカソの「ゲルニカ」はパリ万博のスペイン館に展示された後、戦火を逃れてアメリカに「亡命」する。その後、スペインに民主政権が誕生するまで長きに渡ってMoMAによって守られ続けた。今はマドリードにあるこの名画を反戦の象徴としてぜひ「ピカソの戦争」展に持って来たいと願う瑤子。国連本部ロビーにある「ゲルニカ」のタペストリーが暗幕で隠された事件を発端に、2つの物語は交錯しながら進んでいく。史実と虚構をないまぜにしたストーリー作りの巧みさはさすが原田マハだ。

 

 「ゲルニカ」の亡命に力を尽くしたスペイン名門一族の青年バルド・イグナシオ、MoMAの財政的・精神的支柱ルース・ロックフェラー、そして、ピカソとその愛人ドラ・マール、個性的な人物を配した物語は劇的なラストへとノンストップで突き進んでいく。スリリングでスケールの大きな美術サスペンス!アートの力とそれを信じる人々の力を描いてこれはまさにアート小説の傑作、原田マハの最高傑作だ。

 

◯この本は2018年6月、新潮文庫で文庫化されました。

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 2016.6.2 体調は回復基調。それにしても舛添氏…リコールは難しいのかなぁ。読書は村上春樹「ラオスにいったい何があるというのですか」。

 

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