さてさて11月12日からいよいよ映画「この世界の片隅に」の公開がスタートします。のん(能年玲奈)さんが主役のすずさんの声を演じることでも話題ですが、映画自体の出来も素晴らしいようです。そりゃあそうでしょう、こうの史代さんの原作コミックが本当に感動的ですから。しかも、監督は「マイマイ新子と千年の魔法」などの片渕須直、音楽は知る人ぞ知るコトリンゴ(「もみじ市」で聴いたっ!)。原作は前に感想を書いたので、まずそれを読んでみてくだい。
◯市民の側から戦争を描いた大傑作「この世界の片隅に」
これはまぎれもない傑作!「夕凪の町 桜の国」と並ぶこうの史代
の代表作だろう。彼女の作品を比類なきものにしているのは、キャラ
クター設定の見事さと常にユーモアを忘れない表現にある。この2つ
があればこそ、戦争、そして、原爆の悲劇を描きながらも暗いだけの
物語になってはいない。それが読む者にとって大きな救いなのだ。
「この世界の片隅に」の主人公は北條すず。何を考えているのかよ
くわからない、ちょっとドジなところもある少女だ。のんびりとした
性格のこの18歳の女性が広島から呉へと嫁ぐ。時は昭和18年から19
年へ、もちろん戦時下の暮らしだ。しかし、後半になるまで戦況自体
が描かれることはない。ここで描かれるのは、すずと北條家、そして
実家の人々の「銃後の暮らし」である。すずと夫である周作との初々
しい愛、ちょっといじわるな義姉との心のつながり、娼婦であるリン
との友情などなど、人と人が生きている確かな暮らしがそこにある。
こうの史代の表現は、いつも通り多彩だ。ある回では「愛國いろは
かるた」なるものを再現したり、「とんとんとんからりと隣組」の歌
に合わせたほとんどセリフなしの回があったり、当時の献立をくわし
く描いたり。何度もくり返し見たくなるページが多い。
物語は敗戦に向かい突き進んでいく。呉という町は、帝国海軍の拠
点、広島の軍都だ。空襲は日に日に激しくなり、そんな中ですず自身
にも悲劇が起こる。そして、広島の町にはついに…。この後半にいた
ってもこうの史代の表現にはブレがない。原爆の描写も過剰にはなら
ないし、ユーモアも忘れない。「人間」を見る作者の目はあくまで優
しい。敗戦後を描いたエピローグ的な5話が素晴らしい。すずをはじ
めとする人々の健気さ、強さが心を打つ。そして…、カラーで描かれ
た呉の町の美しいこと!市民の側から戦争を描いてこれは本当に見事
な物語である。 (旧ブログより 2011.8.26記)
うむ、自分で読み直しても読後の感動が蘇ってきました。映画、ぜひぜひ観てください。そして、できるならば原作も。今、アマゾンなどで買いやすいのはアクションコミックスの上中下3巻、これはKindle版も出ています。別に前篇、後編に分かれたものも出ているのですがこちらは中古販売になっているようです。
さらに、関連本もいろいろと出ています。まずは劇場アニメの公式ガイドブック。これ、映画を観たら欲しくなりそうだなぁ。ディープなファンには絵コンテ集もいいかも。
あと、雑誌「ユリイカ」のこうの史代特集も気になります。片淵監督やのんさんのインタビュー、コトリンゴさんも寄稿しています。
というわけで、土曜日公開が楽しみ、楽しみ!これも間違いなくヒットするでしょう。それにしても今年は邦画の勢いがすごいなぁ。ううむ。
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