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【書評】窪美澄「すみなれたからだで」-生の実感を思う短編集、その先にある「寂しさ」が強く心に残る

 8つの物語からなる短編集だ。様々な雑誌に掲載された物語を集めたもので個人的には既読のものもある。作者には珍しいタイプの小説もあるが、それぞれの出来は良く窪美澄の小説を堪能することができた。

 

 年末に父の死を知らされた男がそれからの顛末を描く「インフルエンザの左岸から」、ちょっと軽めではあるけれど弟との関係がよく描かれていて8編の中ではこれが一番好きだ。「バイタルサイン」、昭和という時代の終わりを舞台になさぬ仲の娘と父とを描いたこの小説は読後も強い印象を残す。「朧月夜のスーヴェニア」はアンソロジー「きみのために棘を生やすの」(河出書房新社)で読んでいたのだが、この短編集の中で読んだ方がすんなりと心に入ってきた。認知症だと思われている老女がその波乱に満ちた生と性を自ら振り返る物語。短い短い表題作やラストの「猫と春」もいい。

 

  これらの物語に通底しているのは「生の実感」だ。日々の暮らしに流されてそれを感じられない者がいる、そのただ中にいるはずなのに気づかない者もいる、ひたすら求め続けることでしか生きていけない者もいる。生の実感ってなんだか寂しい。その寂しさが読後に強く心に残った。

 

◯この本は2020年7月に河出文庫で文庫化されました。

 

◯窪美澄の他の本の書評はこちら

 

 2016.12.22「逃げ恥」最終回、よかったですねぇ。まだまだ余韻が。読書は吉田修一「怒り(上)(下)」に突入。

 

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