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【書評】原田マハ「アノニム」-ジャクソン・ポロック幻の傑作がオークションに。落札からの展開にドキドキ!

 「楽園のカンヴァス」「暗幕のゲルニカ」に連なる原田マハのアート・エンタテインメント。今回はモダンアートの天才ジャクソン・ポロックの絵がテーマだ。香港で幻の傑作「ナンバー・ゼロ」がオークションに掛けられることになった、というのが発端。今までその存在さえ知られていなかった作品の出現に色めき立ち集結してくるアートコレクターたち。その中になぜか世界的な建築家ミリこと真矢美里もいる。彼女とその仲間たちはどうやら何かを企んでいるらしい。一体何を?

 

 そしてもう一方の主人公、香港の高校生17歳の張英才(チョン・インチョイ)。デイスクレシア(難読症)だが、絵が大好きな若者だ。彼はネットを通して「アノニム」という謎のアート窃盗団の存在を知り強い共感を覚えるのだが…。

 

  オークションが始まるこの時期、香港では特別行政区の長官を選ぶ普通選挙への期待が高まり、学生たちがデモや集会を繰り返していた。混沌の街・香港で誰が落札するのか見当もつかない混沌としたオークションが始まる。そして読者は、しだいしだいにミリたちの企みが何なのか、その中身を知ることとなる。そうか、そうだったのか!アートを愛する彼らのめざすところは?

 

 「ナンバー・ゼロ」落札からの展開にドキドキする。ラストの学生たちの決起集会もいい。おもしろいストーリーで「アノニム」という集団への共感もある。しかし、今までのものに比べるとエンタメ過ぎるのがちょっと残念。アートの中にある知的な部分に触れられることがアート・エンタテインメント小説の楽しみだと思うのだけど、そこがちょっと弱い。ラストももうひと押しが足りないが気がする。

 

 ○原田マハ、他の本の書評はこちら 

 

◯この本は2020年7月、小学館文庫で文庫化されました。

 

 2017.8.2  台風の影響なのか天気が悪い。気温が低いのはうれしいけれど。読書は村田沙耶香「殺人出産」。

 

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