北村薫の文体は独特だ。時々、知が勝ちすぎる物語もあるので、当然読者を選ぶ。そんな彼が山登りの小説を書いた。へぇ〜どんな感じだろうと思って読んでみると、北村薫はやっぱり北村薫だった。
しかし、誤解があった。山登り小説だと思っていたけれど、そうではなかった。確かにこれを読んで山に登りたいと思う人は多いだろう。特に女性は強く思うかもしれない。実際、文庫の解説を書いた書評家の瀧井朝世も登り始めたらしい。
この小説の主人公「わたし」の周りでは辛いことばかりが起こる。上司である編集長は困ったちゃんで仕事は大変だし、長い間友人であった女性を突然亡くしてしまうし、5年前に別れた男の結婚話を聞いてしまう。山は、そんな彼女の「救い」になっている。自然の脅威に向かい合うことでよけいなことを考えなくてすむからだ。グループではなく一人の登山だから自分の好きなようにできるからだ。
「八月の六日間」は5つの話からなる連作短編集だ。その中で彼女は5つの上級コースを踏破する。それでもこれは山登り小説ではない。アラフォー女子の成長小説といった方がよりピンとくる。「わたし」が山に行くことで、気持ちがしだいにほどけていく、その様子がなんといってもいい。
彼女は山に本を必ず持っていく。その本のことにちょっと触れるのもまた北村ワールド。それにしても…この話、山に登らずに書いたなんて…。おそろしいぞ、北村薫。
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2017.8.9 え〜こちらは39℃の予報が出ておりますが、みなさんお元気でしょうか。読書は大崎善生「聖の青春」。積ん読本、少しずつ解消中。
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