今年の新井賞受賞作。コミックだったので早速読んだ。あ、新井賞というのは三省堂神保町本店勤務の書店員新井見枝香さんが選ぶ本の賞。年2回芥川賞・直木賞と同じ日に発表されている。個人のものだけど、なぜか本好きには注目されてる賞です。
で、はるな檸檬さんの「ダルちゃん」、これはいいぞ!久しぶりにコミックで興奮した。主人公の丸山成美は24歳の派遣社員。表紙ではカワイイ姿で登場しているが、実はこれは仮の姿。本当の彼女はダルダル星人のダル山ダル美、ダルちゃんなのだ。とまぁ彼女は自分で言っている。やたらとセリフが多い物語だが、なんだかとても切なく、読み進めていくうちにダルちゃんがとてもとても愛おしくなってくる。
簡単に言ってしまうとこれは、幼い頃から周囲に合わせようと必死で生きてきた女性が本来の自分を失ってしまっていることに気づき、再生していく物語だ。フツーの女の子になろうと周囲を観察し、なんとかそれなりの「容姿」と「ふるまい」を手に入れたダルちゃんの健気さと悲しさ。彼女はそれを「擬態」と呼んでいる。
そんなダルちゃんにターニングポイントが訪れる。彼女の言動に厳しい言葉を投げかけたサトウさんという女性の先輩との出会いだ。サトウさんに詩の世界に誘われ、ダルちゃんはしだいしだいに「自分の言葉」を獲得していく。それは自分のことを自分で語ることができるようになること。
自分をさらしてさらして そうしないときっといい詩なんか書けなくて
それは本当に怖いけど 私 それでも どうしても
その先にあるものが見たいんです
彼女のこんな覚悟が素晴らしい。やがてダルちゃんは、この世の中には自分の他にもダルちゃんはたくさんいるのだ、と気がつく。恋をも通過点にして、彼女は「自分で自分を抱きしめることができる」ようになるのだ。
これは多くの女性たちに共感と勇気と希望を与えてくれる物語だ。シンプルだけど繊細で表情から感情がしっかりと伝わってくる絵がとてもいい。2巻で完結させた潔さも素晴らしいな、と思う。ぜひぜひ一読を!!
DATA ◆はるな檸檬「ダルちゃん1・2」(小学館)各918円(税込)
◯新井賞、これまでの受賞作はこちらで
2019.2.15 東京、今日は寒いぞ。来週は暖かくなるというので期待!!読書は原田ひ香「DRY」。
【書評ランキングに参加中】
ランキングに参加中。押していただけるとうれしいです。