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【絵本/感想】ショーン・タン「セミ」-ショーン・タンが送り続ける社会の片隅で生きている人々へのエール!

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 ちひろ美術館・東京での展覧会もすごくよかったショーン・タンの最新作。帯と裏表紙にこんな言葉がある。

 

セミ おはなし する。

よい おはなし。かんたんな おはなし。

ニンゲンにも わかる おはなし。

トゥク トゥク トゥク!

 

 翻訳は岸本佐知子。この「トゥク トゥク トゥク!」はセミの鳴き声なのだろうか?本文でも文章の最後はこのフレーズで終わっている。岸本訳はリズミカルで、そのリズミカルさがなぜかもの悲しい。

 

  主人公のセミは17年間昇進することもなく真面目に働き続けた「サラリーマン(という表現がピッタリくる)」。同僚の人間たちからのイジメにもひたすら耐え、会社のトイレを使うことも許されず、ひたすらデータの入力を続けている。

 

けっきん なし。ミス なし。

トゥク トゥク トゥク!

 

17年目で定年を迎えるセミ…

 

そうべつかい なし。あくしゅ なし。

ボス言う、つくえ ふいていけ。

トゥク トゥク トゥク!

 

 グレーを基調にしたショーン・タンの絵とこんな文章、そういう話なのね、と誰もが思ってしまうに違いない。で、この後は言えないのだけど、このサラリーマン・セミが一発逆転の…。いやぁ、これはすごいぞ。なるほどね。そういうことなのだ。17年にもしっかり意味があったのだ。ショーン・タンはいつも、その作品を通じて社会の片隅で生きている人々にエールを送り続けている。最後のページに添えられた芭蕉のあの句、

 

閑かさや

胸にしみ入る

セミの声 

 

う〜ん、しみ入るなぁ、しみ入るぞ。 トゥク トゥク トゥク!

 

DATA◆ショーン・タン「セミ」(河出書房新社)1800円(税別)

 
◯勝手に帯コピー〈僕が考えた帯のコピーです〉

 

そして、セミは笑うのだ

人間たちのことを思って

 

 

◯「セミ」特設サイトもあります!

 ◯「ショーン・タンの世界展」は7月28日まで。ぜひぜひ!

 ◯他のショーン・タンの絵本の感想、情報などはこちらから


 2019.6.29 いつもは自転車で行く買い物も雨のため歩いて。来週も雨マークばかりだ。読書は佐藤多佳子「明るい夜に出かけて」。

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