このタイトル、2つの解釈が可能だ。1つは南伸坊自身のイラストレーション史、もう1つは南伸坊にとっての「イラストレーション史」だ。僕は前者だと思って読み始めたのだが、実は後者だった。
だから、僕が好きな彼のイラストレーションはこの本には登場しない。いや、登場しないことはない。たくさん入っているのだが、その多くが、彼が影響を受けたり、編集者として手がけたりしたイラストレーションや漫画作品の伸坊氏自身による「模写」なのだ。例えば横尾忠則が描いた「話の特集」の表紙も彼が自らの手で描いている。実物を載せればいいじゃないか、という気もしないではないのだが、これがなんだかおもしろく、南伸坊らしさを強く感じた。
全体は4部に分かれている。「小6から中3まで」「工芸高校と浪人時代」「美学校時代」「『ガロ』編集者時代」、どれもがおもしろいが、やはり美学校の赤瀬川原平や木村恒久の授業の話、ガロ時代の編集者・長井勝一との遭遇、つげ義春、川崎ゆきお、佐々木マキ、花輪和一などなどとの話がすこぶるおもしろい。渡辺和博などの「ヘタうま」についての分析も的確で「顔まね」だけの人ではない(ま、そんなことは分かってるけど)と再認識した。
しかし、この本で伸坊氏が一番言いたかったことは他にある。イラストレーター和田誠へのリスペクトだ。中2の時に和田さんのピースの広告を見て、こういう仕事をしたいと思った伸坊氏。そして1966年に創刊され和田さんがアートディレクションを担当した「話の特集」に大きな影響を受けた。和田誠は、この雑誌で文章に従属する「挿絵」ではなく「文章に拮抗する絵画表現」として「イラストレーション」という言葉をチョイスした。言葉を新しくすることで実態に近づけることに成功し、さらに、エディトリアルの世界に「革命」を起こしたのだ。
これを読んで僕は、おぉぉぉそうだったのか、と思った。「話の特集」はずっと読んでいたけれど、ボケ〜としている僕はそれを感じたことがなかった。おもしろい人たちのおもしろい記事が載ってる、と毎号隅から隅まで読んでいた記憶はある。残念ながらその頃の「話の特集」は手元にはない。ただ、100号を記念した「話の特集の特集」という特別号は残っていた。それを見てみると、なるほどなぁ、そうなんだなぁ、と大いに納得した。「話の特集」はまさにイラストショーンを大胆に使ったグラフィカルなマガジンなのだった。ううううう、む。
というわけで、僕自身にとっても大きな発見があったこの本、いろいろな人に読んで欲しいぞ。特に広告関係の皆さん、デザイナーの方などはぜひぜひ!
DATA◆南伸坊「私のイラストレーション史」(亜紀書房)1800円(税別)
◯勝手に帯コピー〈僕が考えた帯のコピーです〉
和田誠がいた。そこで私は、
イラストレーションと出会った。
2019.7.16 またまた雨。さすがに気分も滅入ってくる。読書は川上未映子「夏物語」。ううむ、やっぱりこれはおもしろいっ!
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