また、本の話をしてる

おすすめ本の紹介や書評、新刊案内など、本関連の最新ニュースを中心にお届けします。

【書評】窪美澄「いるいないみらい」-子どもがいる未来、いない未来、どっち?5つの物語を収録した短編集

 

 5つの物語を収録した短編集。どの話も「子ども」がテーマになっている。主人公たちの未来に「子ども」がいるのかいないのか。語り手は夫だったり妻だったり、独身の女性だったりするのだけど、選択肢として「いる未来」と「いない未来」がある。というわけで、このタイトルはいい。巧いなぁ。

 

 設定はいろいろ。子どもが欲しいと願っている夫と今の経済状態ではそれは無理だと言う妻の話(「1DKとメロンパン」)。妻が妊活を始め、なんだか重苦しい気分になる夫、病院に行くと自分の数値が低いことが分かり追い詰められて(「無花果のレジデンス」)。子どもが大嫌いな独身女性が、ちょっとしたことから同じマンションに住む女の子と交流を持つことになるのだが(「私は子どもが大嫌い」)。若い頃、娘を病気で亡くした男が深夜の公園で死んだ娘と同年齢の女性と出会って(「ほおずきを鳴らす」)。最後は、子どもが欲しいという夫と、働きたい!店をもっと頑張りたい!と願うパン屋夫婦の物語(「金木犀のベランダ」)。

 

  シンプルに概要だけを書いたけれど、彼らには様々な背景や過去があり、決して単純な物語ではない。作者はどちらかの未来を肯定しているわけではなく、そういう夫婦のそういう人間たちの葛藤をしっかり見つめ、しっかり描いて、僕らの前に提示してくれる。彼らの体温や彼らの生き方、迷いや悲しみがズンズンと伝わってくるのがいい。当事者ではない僕にもいろいろな事を考えさせてくれた物語たちだった。
DATA◆窪美澄「いるいないみらい」(角川書店)1400円(税別)

◯勝手に帯コピー(僕が考えた帯のコピーです)

 僕たちはどんな未来が欲しいのだろう?

いる?いない?

いる?いらない?

 

◯この本は2022年4月、角川文庫で文庫化されました。

 

2020.3.18 さてさて、宣伝会議賞の発表も終わり、なんとなくリスタートの気分。コロナ禍はまだまだ続くけど。読書は又吉直樹「人間」。

 

【書評ランキングに参加中】

ランキングに参加中。押していただけるとうれしいです。

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ