池澤夏樹といえば最近は労作である個人編集の「世界文学全集」「日本文学全集」がすぐに思い浮かぶが、小説家としての彼も忘れてはならない。8月1日から朝日新聞の連載小説「また会う日まで」もスタートする。このブログでは紹介する機会がなかったけれど個人的には芥川賞受賞の「スティル・ライフ」、谷崎潤一郎賞受賞「マシアス・ギリの失脚」、「エデンを遠く離れて」など、彼の小説には好きなものが多い。
さて、毎日出版文化賞を受賞している「花を運ぶ妹」。人気上昇中のイラストレーター西島哲郎がバリ島で麻薬所持で捕まり死刑になりかける。そこに駆けつけるのがパリで働いていた妹のカヲルだ。厳しい状況が続く中、妹があることを手中にしたことで兄への救済への道が開ける。あること、を言ってしまうとおもしろくなくなってしまうので、ここでは書かないが、それは東洋的なものと西洋的なものとのせめぎあいの中から生まれてきたものなのだ。
ストーリーだけを追って読んでいくと最後は少し物足りないかもしれないが、この物語のおもしろさはそこにはない。 たとえば、ヨーロッパにあこがれ続けてきた妹カヲルがバリを発見するところ、兄哲郎がヘロインにひかれ、そこから逃げだそうともがき又 ひかれていくところ。すべての発端となるインゲボルグという女性との出会い、哲郎とベトナムの母子との暮らしなど惹かれるものが多いし、そこで語られている言葉から、誘発されるものもまた多い。そこには東洋と西洋、生と死、絶望と救済など相対するものが描かれ、さらにその融合が池澤直樹の豊饒な言葉で紡がれていく。
表紙の絵はバリの画家ウウト・バンバン・スゲンの 「共寝」という作品。バリの現代絵画もなかなかいい。
DATA◆池澤夏樹「花を運ぶ妹」(文春文庫)838円(税込)
◯勝手に帯コピー(僕が考えた帯のコピーです)
東洋的なものと西洋的なもの、
バリ島で人とその魂とが交錯する。
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