ここには「推し」という行為のすべてがある。「かか」で文藝賞、さらには三島由紀夫賞を受賞した宇佐見りんのデビュー2作目。なんと21歳!ううむ、とんでもない!
「推しが燃えた。ファンを殴ったらしい。」という一文から物語は始まる。主人公のあかりは「まざま座」というグループのメンバー上野真幸を推していた。彼女は推しの見る世界を自分でも見るために、作品も人もまるごと「解釈」し続ける。推しのあらゆる発言を聞き取り書きつけ、CDやDVDも徹底的に聴き見る。解釈したものを記録し、最終的にブログに公開している。
推しが起こした事件でSNSは揺れ、マスコミは騒ぐが、彼女はさらに推しへの気持ちを強めていく。おもしろいのは「解釈」するということもそうだが、彼女の推しへの思いが熱狂的ファンというのとは少し違うところだ。
一定のへだたりのある場所で誰かの存在を感じ続けることが安らぎを与えてくれるということがあるように思う。
と彼女は語る。少し冷めているのか…?とはいっても彼女の語りの熱量は半端ではない。事件の後の彼女は推しへの想いで溢れている。
もう生半可には推せなかった
体力やお金や時間、自分の持つものを切り捨てて何かに打ち込む。そのことが、自分自身を浄化するような気がすることがある。
そんなあかりだが学校にはなじめず勉強も苦手、家庭でも母親とうまくいってない。推しを推すこと、彼女にとってそれがすべてなのだ。物語は学校の問題、家の問題ともシンクロしながら怒涛の終盤へと突き進んでいく。推しからの衝撃的な発表!そして…。
「推しのいない人生は余生」とまで言うあかりはすべてが終わった時にどうなるのか?これはぜひぜひあなたにも読んでもらいたい。それにしてもグワグワグワッと書きなぐるような勢いで書いている作者のパワーと主人公の多感な想いを巧みに描く表現力に驚く。宇佐見りん、恐るべし!
DATA◆宇佐見りん「推し、燃ゆ」(河出書房新社)1400円(税別)
推すことはあたしの生きる
手立てだった。業だった。
2020.10.22 大きなコンペが2つ始まってなんだかバタバタしてる。読書は高山羽根子「首里の馬」。
【書評ランキングに参加中】
ランキングに参加中。押していただけるとうれしいです。