昨年度の週刊文春ミステリーベスト10 国内部門1位の作品。ミステリー読みではないので横山秀夫は読んだことがなかった。もちろん「半落ち」「64」などは映像作品を見ていて原作のクオリテイィの高さは感じていた。今回、読もうと思ったのは昨年度の「本の雑誌ベスト10」で「ノースライト」はランキングに入らず「別格」になったから。「64」も別格だったらしい。「別格」とはどんな感じ?読まねば、と思ったのだ。
全体の4分の3ぐらいを読んでる時に疑問を感じた。これから「あの人」を探して謎をとかなきゃならないのに残りの分量で間に合うの?と。しかし、その直後にアッと驚かされ、さらにもう一捻りあり、見事な展開でラストまで一気に読み続けた。
物語は主人公である建築家の青瀬が吉野という男から頼まれ信濃追分に建てた家に、一家が一度も住んでいないことに気づくところから始まる。その家は吉野から「あなた自身が住みたい家を建てて下さい」と言われ建てた家で、青瀬自身も気に入っていて業界の評価も高いものだった。それなのになぜ?吉野とは連絡が取れず、何か起こったのではないかと心配する青瀬。手がかりになるのは家に残されたブルーノ・タウト作らしい一脚の椅子だけだ。清瀬は多忙な中、失踪した吉野と家族を探し始める。
この物語がすごいのは、メインのストーリーだけで作っても十分におもしろいはずなのに、様々な要素をプラスして話を「分厚く」仕上げているところだ。離婚した妻と娘日向子とのこと、事務所の所長である岡嶋とのいろいろ、彼が必死の思いで取ってきた建築コンペの話、などなど。特にナチスの迫害から逃れ一時日本にも滞在した建築家ブルーノ・タウトにまつわる様々なエピソードはこの話を本当に読み応えのあるものにしている。建築家を主人公にした話であることがタウトの登場でひときわ印象付けられた感じだ。高崎にあるタウトが一時期住んでいた「洗心亭」、熱海にある彼が設計した「旧日向別邸」の登場がうれしい。
終盤、青瀬の事務所をめぐる大きなスキャンダルが起こり、そんな中、彼はまさに手繰り寄せるように吉野一家失踪の真実に近づいていく。それは遠い過去の記憶を呼び覚ますものだったのだ。様々な思いが交錯するラストの展開が素晴らしい。そうかこれが「別格」の味わいか。 DATA◆横山秀夫「ノースライト」(新潮社)1800円(税別)
◯勝手に帯コピー(僕が考えた帯のコピーです)
ブルーノ・タウトの椅子を残し
施主は失踪した。
一日もその家に住むことはなく。
◯この本は2021年11月、新潮文庫で文庫化されました。
2020.11.13 コロナ感染者、昨日過去最多を更新。今動かないと手遅れだけどなぁ。ううむ。読書は川上弘美「三度目の恋」!
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