「海街ダイアリー」の最終巻が出たのが2018年12月。そして、「月刊flowers」で新しい物語の連載が始まったのが2019年9月号。昨年10月に単行本化され、吉田秋生の新シリーズ「詩歌川百景(うたがわひゃっけい)」がスタートした。「海街ダイアリー」が素晴らしかったのでこれは待ちに待った1冊である。
実はこの物語、「海街ダイアリー」と深くつながっている。主人公の一人、飯田和樹は「海街」最終巻の番外編「通り雨のあとに」にも登場する「海街」の主人公すずの義弟の青年だ。
この番外編で和樹は
違う場所で生まれひとつになることはないふたつの川がそれでも一瞬この谷で寄り添うようにお姉ちゃんと暮らしたあの日々を決して忘れることはないだろう
とすずとの関係を語っている。いずれにしても吉田秋生は周到に「次」を用意していたのだ。
舞台は和樹が生まれ育った山形県河鹿沢。そこには大きな河鹿川と小さな詩歌川、2つの川が流れている(これが引用した和樹の言葉につながる)。そこにある温泉旅館「あづまや」がこの物語の中心となる場所だ。和樹は湯守見習いとしてこの旅館で働いている。1巻ではちょっと混乱してしまうぐらい町で暮らすいろいろな人が登場する。どちらかというと群像劇的な展開だ。その中に友情、親と子、恋、生と死、過去と未来、様々な要素があり人と人がそれをつないでいく。
ラストは雪の大晦日。
白は無色じゃない 豊かな色と美しさがある
と祖母の思いをつぶやく和樹の幼なじみの妙。彼女は「あづまや」の大女将の孫だ。モノクロームの世界に豊かな色や音を見つけていく、それがこの「詩歌川百景」という物語のような気がする。いずれにしても話はまだ始まったばかり。
◆DATA 吉田秋生「詩歌川百景1」(小学館)591円(税別)
◯勝手に帯コピー(僕が考えた帯のコピーです)
美しい自然の中で
いつの間にか
溶けていく心がある。
2021.1.31 緊急事態宣言の効果はあるようなないような。いずれにしても週末の街は人出が多い。読書は木崎みつ子「コンジュジ」。
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