これは絵と文章両方を手がけた「ロスト・シング」より以前にショーン・タンが作った初めての絵本だ。文章はオーストラリアの作家ジョン・マーズデンが書き、岸本佐知子が訳している。日本では今年になって発売された。この絵本で描かれたショーン・タンの絵は彼の展覧会でも見ることができたがかなり強いインパクトがあった。多彩なスタイルで描く人ではあるけれど、これもまたショーン・タンなのか?ううむ。
祖父の、祖父の、そのまた祖父の時代にウサギたちはやってきた。
という一文から物語は始まる。語り手になっている動物はカンガルーみたいな、いやちょっと違うと思っていたら岸本さんが「オーストラリア原産のフクロアリクイを思わせる」と書いている。なるほど。ウサギの方は僕らのイメージとは違ってなんだかとても怖い。欧米でウサギは、日本人のイメージとは違い、その繁殖力の強さから「多産、豊穣、好色」などの象徴らしい。どんどん増えていくイメージ?
さて、ウサギたちは彼らの土地に次から次へとやって来て、勝手に家を作り、見たことのない食べ物や動物まで持ち込みはじめた。ショーン・タンの絵の中でウサギたちは大きく描かれ、反対にアリクイたちは小さく小さく描かれている。国中に広がっていくウサギたち、戦いも起こったが
そしてウサギたちはわたしたちは戦いにやぶれた。
わたしたちの木を切りたおし、だいじな仲間を追いはらい、わたしたちの子どもをさらった。
これは英国に植民地化されたオーストラリアの話である。しかし、この物語には普遍性があり、それだけにとどまってはいない。世界のいろいろなところで現在も起こっている侵略と破壊の物語だ。最後の2つの見開きの詩的で美しい表現が胸を打つ。そして、
だれが、わたしたちをウサギから救ってくれるのだろう?
という最後のフレーズ。そこにショーン・タンがつけた絵がスゴい。これはぜひあなた自身で見て感じて欲しい。
◆DATA ジョン・マーズデン文 ショーン・タン絵「ウサギ」(河出書房新社)2000円(税別)