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【書評】宮部みゆき「魂手形 三島屋変調百物語七之続」ー語って語り捨て、聞いて聞き捨て、ここには本当の人間の怖さがある

 

 語り手1人聞き手1人、「語って語り捨て、聞いて聞き捨て」という三島屋の変わり百物語もこれで7巻目。聞き手も三島屋主人の姪おちかから次男坊富次郎へと変わった。彼になってこれが2巻目となる。

 

  今回は全3話と話が少ないが、どれも読み応えのある物語だ。個人的には1話目の「火焔太鼓」が好き。同名の落語とは特に関係はないが、この話はなんだかすごい。語る本人である小新左、その兄・柳之介、兄の妻よしを中心にした物語は、お太鼓様と呼ばれる城の太鼓を巡る変事、おおほらけ沼のぬし様の存在、そして、数年後に主人公が知ることになる驚きの事実へとよどみなく語られ、読む者をグイグイとその物語世界へ引き込んでいく。ここで語られるのは人間の覚悟というもの。強さも弱さもすべて含んだその覚悟に心が震えた。

 

 このシリーズの感想を書く時はいつも同じことを言ってしまうのだが、宮部みゆきは怪異や幽霊の怖さを描くと同時に人間というものの悲しさ、愚かさ、強さや弱さを描いている。本当に怖いのは人間、という短絡的な話ではない。もっと深いところで人間というものを捉えているのだ。2話目の「一途の念」という話にもそれを強く感じた。

 

 表題作「魂手形」の冒頭、あるところから朗報が届く。三島屋の人々が喜びを抑えきれない様子がなんとも微笑ましい。そして、聞き手である富次郎の心に芽生えた未来への希望!いやいやこのシリーズ、まだまだ気になる。
◆DATA 宮部みゆき「魂手形 三島屋変調百物語七之続」(KADOKAWA)1600円(税別)

 

◯勝手に帯コピー(僕が考えた帯のコピーです)

語る人は救われる、

聞く人もまた救われる。

 

◯宮部みゆき 、他の本の書評などはこちらから

 

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