いやぁ〜この絵本、もう話題になったのだろうか。僕が気づかなかっただけなのか?いやいやいやいや、最高だ、これ!ちょっと興奮!!「この まちの どこかに」は作者のシドニー・スミスが初めて絵と文の両方を手がけた絵本。2019年のニューヨーク・タイムズ最優秀絵本賞を受賞している。スミス氏はこの本以前にも絵だけを担当した本で様々な受賞歴がある。
「この まちの どこかに」、まずは独特の絵とその表現が素晴らしい。こまかい線と太い線の使い分け、黒とグレーを基調としたシックなカラー、どこかソール・ライターの写真を彷彿させるような街の表現。どれもが魅力的で繰り返し見たくなる。
そして、その物語。バスの中から見える街の風景から始まるストーリー、最初のフレーズがいい。
そして、その物語。バスの中から見える街の風景から始まるストーリー、最初のフレーズがいい。
まちの なかでちいさな ものは、どんな きもちでいるだろう。
強い引力を持つこの言葉が物語の中へと読む者を引き込んでいく。バスに乗っているのは表紙の男の子。どこか思いつめたような表情がいい。そうかこれは街と小さな子供たちの物語なんだ、と僕は思った。さらに続くページでは街を歩き廻る男の子の姿。タクシーのクラクションや工事の音など街の中のストレスが表現される。ふと気がつくと雪が降り始めている。小さな者たちへのアドバイスのようなフレーズ。うむ?あれ??うん?
これから先はちょっと話せない。物語はそうかそういうことだったのか、というような展開をみせる。僕たち読者は1人で街を歩き回る男の子の寂しさを共有し、同時に小さき者の心細さをも共有することができる。ラスト前の見開きと最後のページで泣きそうになった。せなあいこさんの訳文と工夫されたこのタイトルも素晴らしい。「この まちの どこかに」は今まで読んだ絵本の中でも忘れられない1冊になりそう。皆さんもぜひ一度手に取って読んでみてください。 ※楽天やアマゾンでは紹介文ですべてを明かしてしまっています。絵本を楽しみたい人は紹介文はスルーした方がいいですよ。
◆DATA シドニー・スミス「この まちの どこかに」(評論社)1600円(税別)
◯勝手に帯コピー(僕が考えた帯のコピーです)
歩き回って歩き回って、僕は…
街にきみの居場所はあるの?
2021.9.17 9月とは思えない涼しい日々。読書はアイリーン・M・ペパーバーグ「アレックスとわたし」。
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