窪美澄、やっぱり巧いな。この物語、いつもなんだかキシキシした感じがする彼女の小説にしては非常に真っ当(でもないか)な話を真っ当に書いていて、その点では窪美澄感は少ない。それでも細やかに描かれた52歳の主人公の心情には強く惹かれるものがある。
平凡な主婦で夫と一人娘と穏やかに暮らし、そのまま年を重ねていくだろうと自分でも思っていた絵里子。彼女が夫の部屋で風俗店のポイントカードを見つけたことからその人生に大きな波紋が広がる。整形でいろいろいじって30代ぐらいにしか見えない高校の同級生詩織との再会、娘の萌が引き起こす小さな事件、さらに回想として夫との出会いや母との確執なども描かれながら物語は進んで行く。絵里子は夫の行動を許すことができず、ある行動に出る。
そこからも詩織のパートナーのみなもや風俗で働く楓などとの出会いがあり、娘や母との関係も変化していく。読んでいて嬉しくなるのはそんな諸々を経て、絵里子という女性が自由の翼を得て、内面的にも外面的にも変わっていくところだ。いろいろな束縛から解き放たれたその喜びが読む者にもしっかりと伝わってくる。そこにはもうかつての彼女は存在しない。人との出会いの大切さもこの物語の大きなテーマだろう。
ただ、ラストは賛否両論があるのではないだろうか。確かに終盤の絵里子ならばこれから後の人生も彼女なりに新しい暮らしを創り出していくだろう。タイトルを考えればこのラストも想像できたかもしれないけれど。
◆DATA 窪美澄「たおやかに輪をえがいて」(中央公論新社)1650円(税別)
平凡な主婦だった。
それでいいと彼女は思っていた。
◯窪美澄、その他の本の書評や情報はこちらから
2021.11.17 コピーのコンペが終わると今度はラジオCMのコンペに本腰を。さてさてコロナは?読書は原田マハ「リボルバー」。