原田マハのアート小説は大好きだし、構成も巧みで読ませる。史実と虚構を綯い交ぜにする手法には批判もあると思うが、この「リボルバー」ではそのあたりもうまく消化されているような気がした。
主人公はパリの小さなオークション会社で働く高遠冴。その会社にサラという女性が錆びついたリボルバーを持ち込んできた。彼女はその拳銃は「フィンセント・ファン・ゴッホを撃ち抜いたもの」と語り、オークションへの出品を依頼する。ゴッホとゴーギャンに詳しい冴はそれが本当にゴッホの「自殺」に使われたものなのかを調べることになる。もう一つのリボルバーのこと、ゴッホの「自殺」の真相、Xと呼ばれるゴーギャンの孫の存在、調べるほどに謎は深まるばかりだ。随所で語られるゴッホとゴーギャン、ゴッホの弟テオとの物語が小説に厚みを加えている。「たゆたえども沈まず」というゴッホが重要な役割を果たす小説を書いた原田マハだからこそ書けた話である。
物語はさらにサラの追想、彼女の母エレナの告白、ゴーギャンの告白と続き、リボルバーの秘密が次第に明らかになっていく。これは一丁の拳銃の物語ではあるけれど、ゴッホとゴーギャンの物語でもある。2人は不遇のうちにその生涯を閉じたことになっているが、原田マハは主人公を通して、自由に描き続け、タブローの新しい地平を描いた2人は決して不幸ではなく幸福だってのではないか、と読者に問いかけている。それこそが作者がこの物語で一番語りたかったことではないのか。ラスト近くで再会する冴とサラ、そこで語られる意外な事実とリボルバーに隠されていたある事、最後の最後まで読ませる物語だった。
◆DATA 原田マハ「リボルバー」(幻冬社)1600円(税別)
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2021.12.1 わっ、師走になっちゃった。オミクロン、さてどうなる?読書は綿矢りさ「オーラの発表会」。