昨年のマイベストで5位に選んだ絵本「このまちのどこかに 」のシドニー・スミスが絵を描いているので手に取った。文章はカナダの詩人ジョーダン・スコット。最初に書いてしまうがこれは吃音の障害を持つスコットが実体験を元に作った絵本だ。
「朝、」
「ぼくのまわりは」
「目をさますといつも、」
「ことばの音だらけ。」
という最初の見開き、「そして、ぼくには、うまくいえない音がある。」で締めくくられる次の見開き。始まりから一気に心を掴まれる。すべてが「詩人の言葉」で語られ、それに呼応するようなシドニー・スミスの絵が見事だ。
主人公の男の子は、朝から
「口のなかにはもう、そんなやっかいな音がつまっている。」
「ぼくは、石のように口をつぐんだまま。」
そんな気持ちのまま学校へ行って、教室では先生に当てられないかとビクビクしている。そんな彼を先生が指す。「だれも目をふせない。魔法をかけられたぼくの口から、あやしい月の光がでているはずなのに」。大きな屈辱…。
放課後、父親が彼を川に誘う。「むねのなかに嵐がおこり、ぼくの目は雨でいっぱいになる。」、父は言う「ほら、川の水を見てみろ、あれが、おまえの話し方だ」と。川は
「あわだって、」「うずをまいて、」
「なみをうち、」「くだけていた。」
見開きいっぱいを使った男の子の顔のアップ!さらに大きく開かれた4P分の見開きの川の中に佇む男の子の姿。いやいやいや、この文章!この絵!ここでの表現はちょっとスゴい。父が伝えたかったこと、それを受け止めようとする息子。吃音を持つ人、その周囲の人々に大きな力を与えてくれるこの絵本の力!
作者による「ぼくの話し方」という最後の文章も強く心を打つ。この本は障害を持つ体験を芸術的な表現にした児童書を対象にしたシュナイダー・ファミリーブック賞の受賞作でもある。
◆DATA ジョーダン・スコット文/シドニー・スミス絵「ぼくは川のように話す」(偕成社)1600円(税別)
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