川上未映子、2年半ぶりの新作「春のこわいもの」は6つの話が収録された短編集。最後の「娘について」が少し長い。それにしてもこのタイトルはいいなぁ。こわいものっていったい何だろうと思いながら読み進めていった。
どの物語にも心惹かれるが「あなたの鼻がもう少し高ければ」は「ギャラ飲み」の元締めモエシャンの面接に応募した整形願望の強い女子大生の話。「心じゃない。顔と向き合え」と言い放つモエシャン。面接ではその側近に「なんでブスのまま来てんの?」と言われ、隣にいた整形美女は鬼スルーされてしまう。面接後の喫茶店での2人の会話がドキドキのおもしろさ。そして、ラスト数行の戦慄!
「ブルー・インク」では主人公の高校生が仲良しの女生徒からもらった手紙を失くしてしまう。彼女は「一度書かれたものは、どうしたって」「残ってしまうから」「わたしは、それがとても怖い」と言い、手紙に異常なほどの執着をみせる。2人は夜の校舎に忍び込むが手紙は見つからず彼女は激しく泣き始める。この執着の怖さと、主人公が泣き止まぬ女性に怒り、性的な思いを強く抱くという「リアル」の怖さが入り混じる。
少し長い「娘について」、主人公の小説家の女性に昔仲がよかった見砂という友だちから電話がかかってくる。東京で一緒に住んでいたこともあったが本当に久しぶりの電話だった。彼女は見砂の母とも親しかった。その電話をきっかけに主人公は自分が昔見砂にしたことを思い出していく。過去の仕打ちはすでにどこかに消えかけたはずのものなのだが、彼女自身が思い出したことで確かにあったこととして定着される。そのことにいたたまれず主人公が最後にとった行動が何ともおかしく哀しい。
すべての話の舞台となっているのは感染症(コロナという言葉は出てこない)がパンデミックを起こす直前の東京。何かが起こる前という設定がおもしろい。そういう時だからこそ見えてくるものがあるのだろうか?
どの物語にも心惹かれるが「あなたの鼻がもう少し高ければ」は「ギャラ飲み」の元締めモエシャンの面接に応募した整形願望の強い女子大生の話。「心じゃない。顔と向き合え」と言い放つモエシャン。面接ではその側近に「なんでブスのまま来てんの?」と言われ、隣にいた整形美女は鬼スルーされてしまう。面接後の喫茶店での2人の会話がドキドキのおもしろさ。そして、ラスト数行の戦慄!
「ブルー・インク」では主人公の高校生が仲良しの女生徒からもらった手紙を失くしてしまう。彼女は「一度書かれたものは、どうしたって」「残ってしまうから」「わたしは、それがとても怖い」と言い、手紙に異常なほどの執着をみせる。2人は夜の校舎に忍び込むが手紙は見つからず彼女は激しく泣き始める。この執着の怖さと、主人公が泣き止まぬ女性に怒り、性的な思いを強く抱くという「リアル」の怖さが入り混じる。
少し長い「娘について」、主人公の小説家の女性に昔仲がよかった見砂という友だちから電話がかかってくる。東京で一緒に住んでいたこともあったが本当に久しぶりの電話だった。彼女は見砂の母とも親しかった。その電話をきっかけに主人公は自分が昔見砂にしたことを思い出していく。過去の仕打ちはすでにどこかに消えかけたはずのものなのだが、彼女自身が思い出したことで確かにあったこととして定着される。そのことにいたたまれず主人公が最後にとった行動が何ともおかしく哀しい。
未知のものへの予感と怯えが、潜在化していたものを顕在化させる。その気づきこそが人にとっての恐怖なのではないか。いずれにしてもこの6つの物語。どれもゾワゾワとおもしろい。
◯勝手に帯コピー(僕が考えた帯のコピーです)
それはパンディミック直前の東京。
少し前には少し後の
すべてがある。
◯岸井ゆきのさんがナレーターをつとめるオーディブル版もあります
◯川上未映子、他の本の書評などはこちら!
2022.4.13 なんだ、なんで暑いんだ。夏は苦手なのでやめてください。あ、明日は今日からマイナス11度。ううぅ。読書はルシア・ベルリン「掃除婦のための手引き書」。
【書評ランキングに参加中】押していただけるとうれしいです。