「月の番人」は月で1人働くお巡りさんの話だ。シンプルだけどとても丁寧に描かれた月世界。主人公や月の住人など登場人物の顔も目鼻だけというシンプルなもの。しかも、横顔しか見せない。SNSだったかなぁ、誰かが感想を書いてて無性に読みたくなったコミックだ。絵は表紙と同じで2色刷り。月の世界にムダな色はいらないのだ。
お巡りさん、と書いたけれど、主人公の彼は警官としての権威もなければ、強さもない。フツーの若者、という感じだ。彼は地球に向けて3ヵ月に1度犯罪報告をしなければならないのだが、報告を受けた犯罪も調査済みの犯罪もゼロ。ゆえに彼の犯罪解決率は100%だ。静謐な月世界を1人で巡回する男。出会うのは迷子の女の子だったり犬を探しているご婦人だったり。毎日の楽しみは自販機で買う月のドーナツとコーヒー。月での日々は淡々と過ぎていく。
彼はある日突然、転属願いを本部に送る。月を離れて何処かに行きたいようだ。しかし、それは認めらず、セラピーロボが送られて来る。ドーナツとコーヒーの自販機はなぜかドーナツショップに変わり、お店の女性との会話が男の慰めになっている。彼女が聞く、
「絶望しているの?」
「いや」「う〜ん まあちょっとはね」
セラピーロボは壊れて地球に戻り 、犬の奥さんはハワイいる息子と暮らすことになる。男がデータバンクであることを調べてみると。なんと月には…。静かで美しい月世界の物語。月の生活の寂しさも漂うけれど、どこか優しい気持ちになれるのがいい。トム・ゴールドはスコットランド生まれの漫画家、イラストレーター。家族と共にロンドンで暮らしている。古屋美登里さんの訳。
◆DATA トム・ゴールド「月の番人」(亜紀書房)1500円(税別)
◯勝手に帯コピー(僕が考えた帯のコピーです)
僕は何を探してるのだろう?
何が必要なのだろう?