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【コミック/感想】トム・ゴールド「ゴリアテ」ー敵と1対1で戦うために選ばれた身長3mの勇者ゴリアテ、さて、彼と戦う者は出てくるのか?


 このブログでも紹介した同じ著者の「月の番人」というコミックがおもしろかったので、他のも読んでみたくなり手に取った。最初に旧約聖書「サムエル記」第17章から引用された文章が載っている。あ、ゴリアテってそういう人なんだ、と思い、さてこのコミックではどんな話が描かれてるのかと思ってたらまさにその引用された話だった。

 その話とは、谷間を挟んで向かい合うペリシア軍とイスラエル軍。ペリシア軍は身長3mもある勇者ゴリアテを送り出し、イスラエルに彼とそちらの勇者、1対1の戦いで戦争に決着をつけようと提案する。しかし、相手はすっかりゴリアテに怯えてしまい…という話でその結末までが書かれている。

 

 で、コミックの方。なるほどゴリアテは確かに背がやたらと高い男だが勇者でもなんでもなく、文官で戦うことなど超キライ。それなのに鎧を着せられ楯を持ち、谷間に出向き、イスラエルへのメッセージを読み上げる。隊長の命令に強く抵抗もしない気弱な男ゴリアテ。「勇者にみえる」彼に「勇者のふり」をさせるという作戦。「敵が退散するまで」続けるというのだが。結局、40日経っても何も起こらない。しかし…。

 

 この物語は広く知られているのかもしれないが僕はまったく知らなかった。ゴリアテは実は、ということではもちろんない。旧約聖書の中の話なのだから真実があるわけでもない。ただこのコミックで描かれたのは「こういうこともあり得るよね」という話。何が真実かなんて実は誰にも分からない。寓話であろうが歴史上の事実であろうが。常に別の面をみていかないと物事はつまらないのだ。

 物語の結末もまた意外だが、そこにもまた寓意があるのかもしれない。シンプルでムダのないトム・ゴールドの絵が僕はすごく好きだ。
◆DATA トム・ゴールド「ゴリアテ 」(パイインターナショナル)1900円(税別)

◯勝手に帯コピー(僕が考えた帯のコピーです)