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【書評】金原ひとみ「パリの砂漠、東京の蜃気楼」ー金原ひとみ、初のエッセイ集!しかし、これは一つ一つが小説の1編としても読めてしまうおもしろさと凄みがある

 

 2020年に出た金原ひとみの初エッセイ集。彼女の小説が好きでいったいこの人はどういう人なのだろう?という思いが強くなって手に取った。この「パリの砂漠、東京の蜃気楼」では彼女が6年間暮らしたパリを離れ、日本へ帰国したその前後のことが書かれている。パリ編・東京編それぞれ12編。いや、しかし、う〜む、これはエッセイなのだろうか?まぁ確かにエッセイではあるのだけど、一つ一つが小説の1編としても読めてしまうようなおもしろさと凄みがある。そこには彼女が紡いでいる小説の世界が確かに存在しているのだ。ここで語られる金原ひとみは彼女の物語の主人公たちに緩やかにつながっている。金原ひとみの小説はある意味、私小説なのかもしれない。

 パリ編の冒頭ではテロのこと、飛び降り自殺のことが語られドキッとする。印象的な言葉。

「とにかく何かをし続けていないと、自分の信じていることをしていないと、窓際への誘惑に負けてしまいそうだった。」「不登校だったことも、リストカットも、摂食障害も薬の乱用もアルコール依存もピアスも小説も、フランスに来たこともフランスから去ることも、きっと全て窓際から遠ざかるためだったのだ。」

 この本では本当に様々なことが語られている。夫や娘たち、母とのことなど彼女の家庭内での出来事はもちろんのこと、フランスと日本、その彼我の差、女友達とその結婚生活、生と死、音楽、書くことなどなどなど。特に不倫や離婚や子供の間で揺れ動く女友達たちとのやりとりは読む者を共感と反感の狭間で混乱させる。そして、なによりもそれらを語るための強く刺激的な言葉の数々!それこそが金原ワールドなのだ。彼女でなければ書けない表現がそこにはある。そして、さらなる印象的な言葉。

「初めて彼氏ができてからずっと恋愛を軸に生きてきたから、もう恋愛がない生活を思い出せないんだよ。」「きっと私は恋愛によって救われたのだ。個人として、一対一で誰かと向き合い、求めたり求められたりすることで、生きる意味を自分の中に構築していくことができたのだろう。」 

「私はもともと生きづらかった。生きづらさのリハビリをしてくれたのは、母親や家庭ではなく、恋愛であり、小説だった。 」

 金原ひとみという小説家の中には常に生きづらさがあった。それでも、恋愛を続けること、小説を書き続けることで救われてきた。このエッセイで記された彼女の儚い魂と激しい心の叫びはきっと誰かの心をも救うことになるだろう。
◆DATA 金原ひとみ「パリの砂漠、東京の蜃気楼」(ホーム社)1700円(税別)

◯勝手に帯コピー(僕が考えた帯のコピー、引用も)

 

 

 

 

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