ショーン・タンの絵本は大好きだ。しかも、彼はどんどん進化している。その進化の具合がとてもいい。これは以前に出た「内なる町から来た話」というやや分厚い、絵本を超えたアートのような作品から犬のエピソード部分をまとめたもの。シングルカットと誰かがうまくいことを言っていた。
それにしてもこの表紙で、「いぬ」というタイトルで、1冊の絵本になっちゃうとなんだかたまらない。「内なる〜」でもこの部分は特によかったのだけど、う〜んいいなぁ。ニューヨーク・タイムズはこの1冊を「大傑作!」と評したらしい。
「かって、わたしときみとはまったくの他者だった。」という一文で物語は始まる。最初の見開きは絵だけで、犬と人との間に黒く深い闇が横たわっている。一転、「世界はぼくらのものだ!」と並んで歩き始める犬と人。しかし、その後に訪れるのは長い分断の時だ。いろんな人といろんな犬、同じ地平にいながらも背を向け続ける人と犬。兵士がいて黒煙が上がり…。ある時、人が振り向き、犬も振り向く。そこには愛おしさと懐かしさがあり、長い長い抱擁がある。そして、再び並んで歩み始める彼らと私たち。これは長い長い歴史を持つ犬と人間の物語だ。
ショーン・タンの絵はアートのように力強く、岸本佐知子の訳文が美しい。「この先地球にどんな運命が待ち受けていようと、それがどんなに途方もなく過酷で、この世の終わりのように思えても、僕らの隣にはきっと犬がいて、前に進もうと僕らをいざなってくれるにちがいない。そうでない未来なんて、僕には想像できない。」というショーン・タンのあとがきがこの絵本のすべてを語っている。
◆DATA ショーン・タン「いぬ」(河出書房新社)
◯勝手に帯コピー(僕が考えた帯のコピー、引用も)
◯「内なる町から来た話」の感想はこちらから!
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