窪美澄の直木賞受賞作。全5編の短編集だ。窪美澄はデビュー作からずっと読んできたが、個人的には初期の数作で受賞してもまったくおかしくなかったと思っている。主人公たちがいる場所のまさに真っ只中から発信されたようなキシキシとした物語ではなく、こういうやさしく救いを感じる小説でスンナリと受賞してしまうのがなんだかとても不思議ではある。とはいえ、待望の受賞、よかった!よかった!
タイトルがとてもいい。表題作はなく、このタイトルは全体にかかっている。どの作品も星とその世界がうまく織り込まれているのだ。各物語の主人公は孤独と不安を抱えた年齢も性別も別々の人々だ。海が近い祖母の家で16歳の夏を過ごす主人公が年上の女性に惹かれていく「銀紙色のアンタレス」も好きだが、個人的には「湿りの色」が強く印象に残った。離婚してアメリカへと去っていった妻と娘、取り残された主人公のマンションの隣の部屋に娘と同年齢の女の子を連れたシングルマザーが引っ越して来る。アメリカの娘に心を残しながらもしだいに母娘に心惹かれていく男。彼の揺れる思いを作者は丁寧に描いていて、そこに強い共感がある。そして、物語は…。
コロナ禍の物語も2編あるが明日も見えない日々を過ごす主人公たちの焦りや不安がストレートに伝わってくる。しかし、空を見上げれば変わらずいつものように星があり、いつものように輝いている。僕らはその天空の下で生きている。いろいろな思いを抱えて。その寂しさと少しの希望がこの物語を支えている。やはり窪美澄はうまい。
◆DATA 窪美澄「夜に星を放つ」(文藝春秋)1400円(税別)
◯勝手に帯コピー(僕が考えた帯のコピー、引用も)
流されていくような日々、
空を見上げれば
いつもの星がある。
◯窪美澄、他の本の感想はこちらを!
2022.10.14 宣伝会議賞に挑戦してるからかどうも読書が捗らない。積ん読本は溜まるばかり。読書は宮部みゆき「よって件のごとし 三島屋変調百物語八之続」が終わったところ。
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