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【書評】高瀬隼子「め生える」ー大人たちが次から次へとはげていく!SF的高瀬隼子ワールドはいつもとちょっと違う!

 

 想像とかなり違う物語で驚いた。はげがテーマだったのでもう少し笑いのある話かと思っていたが、あまりユーモアはなく、彼女らしいシニカルな笑いも少なかった。高瀬隼子の小説はリアルな現実の世界を舞台に、そんな笑いと共に、人間の本質に迫まっていくものが多い。あぁこういう人いる!いる!という描写が共感を呼ぶと共に、人間の
複雑さ、奇妙さ、不気味さを感じさせてくれるのだ。

 

 「め生える」が違うのは、大人が感染症のようにどんどんとはげていくというSF的な展開だからかもしれない。物語の中心にいるのは、大学生の真智加とその友人のテラ。真智加は元々髪が薄いという悩みがあった。周りがどんどんはげていき自分もテラもはげてしまったのだが、ある日突然、髪が生えてくるのだ。これは前半に明らかになるので書いてしまったが、この辺りから作者の意図がほの見えてくる。

 

 真智加は以前ははげてる少数派だったのが今度は髪のある少数派になってしまう。「はげであったことがいつまでも自分を孤独にしている、と何度も新鮮な気持ちで悲しむ」というフレーズがなんだかスゴい。髪があるのに髪がないことにずっと囚われ続け、しんどい思いをしている彼女が長くなった髪をうっとりとなでるシーンの悲しさ。この国の同調圧力の強さが、生きづらさをさらに倍加させている。少しテイストの違う物語で物足りなさもあるが、作者の力量をしっかりと感じることができる物語だ。
◆DATA  高瀬隼子「め生える」(U-NEXT)

 

◯勝手に帯コピー(僕が考えた帯のコピー、引用も)