タイトルから芥川龍之介の小説を想起し、一つの事件を巡る複数の人の証言とその食い違いから真相が分からなくなってしまう、というような話を想像していたが、かなり違った。確かに事件は起こる。いろいろな人間が語るという構成も同じ。しかし、そこに物語が収束されていくことはない。
50代の文芸誌の元編集長が小説家志望の若い女性から性被害を告発されるというのがその事件だが、その告発は発端に過ぎない。性的搾取、毒親、家庭崩壊、SNS、MeToo運動などなど、物語は大きく広がり、うねりを見せていく。出版社の社員や作家、彼らの家族、被害者に加害者、いろいろな人間が登場するが中でも大きな存在感を示すのが元編集長・木戸の担当作家だった長岡友梨奈だ。娘は彼女について「理詰めの人。それで自分自身が理にがんじがらめになって、どうしようもなくなっている人」だと言う。「お母さんは、自分の思い通りにならない世界が息苦しくつらすぎるから、小説を書いているんじゃないか」とも。友梨奈はあまりに真っ当でそれがために周囲との関係、娘との間も危うい。物語は彼女の無力感や絶望を引きずりながら思いがけない大団円へと突入していく。
「YABUNONAKA」には金原ひとみという作家の様々な思いが満ち満ちている。他人に対してのもの、自分に対するもの。それを受けたうねるような溢れるような文章と物語が読む者を圧倒する。金原ひとみはこれからどこに行くのか、どこに向かっているのか。これからの彼女とその小説に対する興味は尽きない。
◆DATA!金原ひとみ「YABUNONAKAーヤブノナカ」(文藝春秋)
◯勝手に帯コピー(僕が考えた帯のコピー、引用も)