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【書評】宮部みゆき「ソロモンの偽証 第1部」-ラストの藤野涼子の決意、その潔さが読者にも勇気を与えてくれる

 事件は1990年冬、東京下町の中学校で起こった。中2の柏木卓也という男子生徒の死体が校庭で発見されたのだ。バブルの時代という設定がうまい。人々はどこか浮き足立ち、格差が広がり、その喧噪の中で何かが失われていく、そんな時代。3部作の第1部で描かれたのは、ひとつの死によって生まれた周囲の人々の「心の波紋」だ。優等生の藤野涼子をはじめとする同級生たち、担任の森内恵美子、死んだ卓也の兄宏之。彼らは卓也の死によって、自らの心をその奥底までのぞきこまなくてはならなくなる。そして、気づくのだ。自分の思いがけない考え、思いがけない一面に。作者は彼らの微妙な心の変化を一人一人こまやかに描いていく。これこそが宮部みゆき!そして、これこそが1部いちばんの読みどころだ。

 

 一時は他殺説まで出たその死は結局、自殺ということに落ち着く。しかし、年明けに届いた匿名の告発状によって事態は一変する。内々に片付けようとする学校、いつの間にか事件を嗅ぎつけたマスコミ、そして、もう一人の死者。連鎖して起こる様々な出来事がさらなる混乱を引き起こす。1部ラストの藤野涼子のある決意。その潔い決意が読む者にも勇気を与えてくれる。

 

 僕らはこの小説に対してすでに幾つかのことを知っている。「ソロモンの偽証」というタイトル。そして「その法廷は十四歳の死で始まり偽証で完結した」というキャッチフレーズ。この大団円に向かって物語はどう動くのか。2部、3部へと大きく期待はふくらむ。

 

◎宮部みゆき、その他の作品の僕の書評はこちら

  

◎「ソロモンの偽証 第1部」は2014年8月、上下2巻で新潮文庫から文庫化されました。

2012.10.3 暑かったり、寒かったり、雨だったり。なんだかわからんな今年の天気。読書は原田マハ「楽園のカンヴァス」、いいねぇ。

 

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