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【書評】朝井リョウ「何者」-就活の渦中にいる者たちの生きていく姿!これは青春小説の傑作だ

 ちょうど直木賞受賞発表の日に読み終わった。まずはテーマそのものをひと言で言い切ったタイトルが素晴らしい。これはタイトル勝ち!周囲の評判も良かったので期待して読み始めたのだが、前半はフツーな感じで傑作感はほとんどない。「何者」は、語り手である拓人、ルームシェアしてる友人の光太郎、その元カノ瑞月、瑞月の友人の理香、一緒に暮らす隆良、同じ大学の3年生である彼らとその友人たちの物語だ。彼らの就活はまさに今、スタートしたばかりである。

 

 中盤の少し前、拓人と瑞月との電車の中でのいい場面があり、そのあたりから物語は加速度的におもしろくなっていく。登場人物たちの本音や本性が垣間見えてくる。就活はいつの間にかシステム化され、マニュアル化され、それがために様々な噂が飛び交い、疑心暗鬼や相互不信を生み出している。そんな中で、なんとか志望する会社から内定をもらおうともがき苦しむ大学生たち。何者かでありたいと切に思う者、何者かであるはずだと信じて疑わない者、何者かになりたいと必死にもがく者、なぜかスイスイとその壁を越えていく者。まさに渦中にいる者たちの、生きていく姿!

 

 終盤、瑞月が、そして理香がまるでぶち切れたように男たちに向かって咆哮する。この場面が本当にスゴい。それは実際に就活を経験し社会人になった朝井自身の思いだろう。必死でがんばる者をどこか馬鹿にしたり、斜めに見てる者たちの存在。そして、そういう人間を生み出す就活そのものへの怒りや哀しみ。同時にここには就活生に向けてのエールもある。朝井リョウはしっかりと彼らを見つめている。そのまなざしの確かさが生み出したこれは青春小説の傑作である。(

 

◎「何者」は2015年6月、新潮文庫から文庫になりました。

 

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2013.1.20 今週の東京地方は火曜と木曜が雨か雪の予報。いやだなぁ、まだ所々雪が残っているのに。読書は津村紀久子「ウエストウイング」。

 

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