オランダで葛飾北斎が描いた西洋画が見つかって大きなニュースになりましたが、夏に読んだ朝井まかての傑作「眩(くらら)」に北斎がシーボルトの依頼を受け西洋画を描いたという話が出てきました。
その話は第四章の冒頭にあります。長崎の阿蘭陀(オランダ)商館に雇われる絵師・川原慶賀が北斎の工房を訪れ、シーボルトの依頼を伝えたのです。そのくだり、自分で打たなくちゃならないので面倒ですがちょっと引用してみます。
「(前略)シーボルト先生は決して日本人ば見下すごたるお人ではありませんけん。他ん蘭人とは違うとです、あんお方は。北斎先生ん絵がお好きで、手許にも仰山、集めておらるっとです」
「そいで、本国のお人らにも見せてやりたかとおっしゃったとです。日本の江戸ていう町には、こんげん凄か腕の絵師のおる。葛飾北斎翁は今、間違いなく世界一の絵師ばいと、言うとられますけん(後略)」
川原はシーボルトの条件の一つとしてこう告げます。
「西画です。西画でそれらば描いていただきたかとです」
「ほ、北斎先生の版画摺物、読本、絵手本、むろん肉筆画もご覧になって、北斎先生は他のどがん絵師よりも遠近ば正しく摑んどらるるとおっしゃっておりました。そいで、ぜひとも西洋の画法に挑んでいただけんやろかて思いつかれたとです」(朝井まかて「眩」86~88Pより)
今回発見された絵は風景画のようです。小説での依頼は江戸市中の当たり前の暮らしを描いて欲しいということだったので微妙に違いますが、僕はこのエピソードをとてもおもしろく読みました。
「眩」は北斎の娘・応為の物語です。西画の製作には彼女も参加し、苦しみながらも完成させます。北斎は工房という形で絵を制作していましたから、もしかするとこの6枚の中にも応為の描いたものが含まれているかもしれません。いずれにしても、日本での公開が楽しみです。
というわけで「眩」おもしろいですよ。僕の書評はこちら。
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